(2017年2月25日号)  PDF版
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主な記事から
 アイラブ重伝建  ドライブするならこのCD   私の挫折本 第2回

 
そろそろお出かけしたい!〜旅特集〜
 
 この本がなかったら、紀伊半島への旅行で湯浅や黒江に立ち寄ることもなかっただろうな
あ。醤油発祥の地・湯浅では、堀沿いに醤油蔵の並ぶ景観にうっとりとし、漆器の町・黒江
では「のこぎり歯状の町並み」に驚いたもの。
 この本がなかったら、山梨の温泉に行く途中、赤沢宿に足を延ばすこともなかっただろうな
あ。山岳霊場を結ぶ宿場であった赤沢宿は、道を間違えたかと思うほどの深い山の中だっ
た。山の霊気をまとった集落のたたずまいは忘れがたい。
 旅先で古い町並みを歩くのが大好きだ。温泉好きのダンナは宿泊先が温泉であればゴキ
ゲンなので、その他の旅程は私の自由だ。そこで登場するのがこの『日本の町並み250』。
「重要伝統的建造物群保存地区」略して「重伝建」を含む250地区が紹介されている。古い 
町並み好きにとって、バイブルのような一冊だ。 
 城下町に宿場町、門前町に港町。情趣あふれる町並みがこんなにもあるのかと目をみは
る。見どころやアクセスなど情報もきめ細かく、美しい写真は眺めているだけで旅行気分を 
味わえる。 
 ただ残念ながら、本書は出版社でも品切れになっているため、これから入手するなら重伝 
建106地区を網羅した『日本の原風景 町並』がお薦めだ。四季おりおりの表情を切り取った 
写真は、ため息がでるほど素晴らしい。 
 次はどこへ行こうかなあ。重伝建制覇という、ひそかな野望を抱きつつ、またページを繰っ 
ている。ああ、日本には歩いてみたい町並みがありすぎる! (香) 
日本の町並み250 日本の原風景 町並
ウエスト・パブリッシング 著
森田 敏隆 著
●山と渓谷社
●256P 
●ISBN 9784635601573
●本体2,000円+税
●光村推古書院
●303P 
●ISBN 9784838105014
●本体2,800円+税
 

東洋のアルカディアを訪ねる旅、
 一昨年の秋、山形・福島の温泉を巡る旅に出た時のこと、新潟から山形へ向かう道に国
道113号線を選んだ。荒川胎内から南陽市へ渓谷沿いを走るこの道は、紅葉の季節は大
変に美しい。が、その時はあいにくの大雨。ひたすらワインディングロードを抜けていくと、小
国を過ぎたあたりで気になる看板を発見。「黒沢峠の石畳」。国道と並行しているようだが、
これってもしかして・・・。
 明治11年、英国の女性旅行家イザベラ・バードは横浜→東京→日光→新潟を経由、東 
北地方の日本海側を北上し、北海道を旅した。このルート、当時西洋人はおろか日本人で
さえ滅多に使わない道を多分に含んでおり文字どおりunbeaten tracks(この旅の記録『日 
本奥地紀行』の原題。人跡未踏の道の意)であった。
 中でも一行が最も難儀したのが先に述べた黒沢峠を擁する「十三峠街道」だった。この街 
道、急峻な山道を荷を運ぶ牛馬が足を取られないよう、また雨で土砂が流されないよう石で 
簡易舗装が施されていたのだが、さしものバード女史も雨と連続する無宿の峠には相当参 
ったようである。ただ、街道終盤の宇津峠頂上から見た素晴らしい景色には心を和ませたよ 
うだ。後に女史が訪れ「東洋のアルカディア」と称えることになる置賜(米沢)盆地の始まりで 
あった。 
 『日本奥地紀行』は佐々大河氏の手でコミック化が進行中。『ふしぎの国のバード』と題し、 
通訳兼従者の伊藤鶴吉を大フィーチャーして現在3巻まで刊行。早くこの峠越えを読みたい 
ものだ (沢) 
日本奥地紀行 ふしぎの国のバード 1
イザベラ・バード 著
佐々 大河 著
●平凡社
●529P 
●ISBN 9784582763294
●本体1,500円+税
●KADOKAWA
●223P 
●ISBN 9784047305137
●本体620円+税
 

フラッシュが稲のようでした
 ジブリアニメで何度も繰り返し観てしまう『千と千尋の神隠し』。そこに出てくる湯屋と似てい
ると巷で噂の長野県渋温泉にある「金具屋」に宿泊してみた。日のあるうちに見ても歴史の重
みを感じる建物だけど、夜にライトアップされてからの迫力!あの世界の雰囲気が半端ない
という印象。圧巻です。ただ室内にいると外がピカピカ光るので雷かと思いつつ覗くと観光客 
の皆様が写真を撮っているフラッシュだったという・・・だけど撮りたくなる気持ちはすごくわか
る!
 予約は早めにしなければならないしちょっとお高めではあるが、それだけの価値はある宿。 
外湯も堪能できるので渋温泉はおすすめです。 (湯) 
千と千尋の神隠し
●ウォルト・ディズニー・ジャパン
●124分
●本体4,700円+税(DVD)
 

の感覚
 今までで一番長期の旅行は一週間の新婚旅行です。こんな長い休みは二度と取ることが 
出来ないだろうと思い、いろいろ思い切って海外に行きました。日常とかけ離れた場所にい 
るだけで、現実なのだけれども夢の中にいるような不思議な感覚のまま、長いはずの滞在 
期間があっという間に過ぎていったことを覚えています。 
 『インスタント・ジャーニー』は世界各国が舞台となった全18編の短編集です。それぞれの 
短編によって、ときにはファンタジー、ときにはホラーといったバラエティに富んだ内容となっ 
ており、見知らぬ土地へ旅行したときの期待と不安が入り混じった、旅ならではの「超日常 
的」感覚を味わうことが出来ます。帯のコピーには「読んだら旅に出たくなる」とありますが、
読むだけでも十分旅の雰囲気を楽しむことができます。一話が5分ほどで読めるので、旅の
お供にもおすすめの一冊です。 (中) 
インスタント・ジャーニー
田丸 雅智 著
●実業之日本社
●240P 
●ISBN 9784408537016
●本体1,500円+税

 
レタスを食べるべからず
 
 「青い服は着るべからず」「男性は口髭を生やすべし」など。イラク北部の山岳地帯に暮ら
すヤズィード教という宗教の教えである。その歴史は古く、オスマン帝国の時代から、現代の
ISによる戦闘行為まで、実に72回もの大虐殺を生き延びてきた。
 本書はこのような中東の秘境に生きる宗教的少数派のコミュニティについて、元外交官の
著者が自ら訪ねて旅し、現地の言葉で丁寧に話を聞いてまとめ上げた一冊である。
 中東といえば、イスラーム教一辺倒と思いがちだが、現実は多宗教の宝庫である。ムスリ
ムに支配されてからも、異教徒はその才能を活用されるなど、長い年月にわたって寛容に共
存の道を歩んできた。 
 それが今や、長引く内戦の影響を受け、少数派コミュニティは絶滅の危機に瀕している。現 
代を生きる貴重な信者たちの息遣いが聞こえてきそうな濃密なルポルタージュである。 
 (坂) 
失われた宗教を生きる人々 中東の秘教を求めて
ジェラード・ラッセル 著
●亜紀書房
●496P 
●ISBN 9784750514444
●本体3,700円+税
 

「しあわせ」はどこにある
 アメリカ人ジャーナリストが、人々が最も幸せに暮らす国を探して各国をまわり、各地の風 
習、哲学などを記した紀行文です。
 旅は「世界幸福データベース」が設置された大学のあるオランダからはじまり、国民の幸福 
度が高いといわれるスイス、逆に低いとされるモルドバ、「国民総幸福量」で有名なブーダン、
富裕国のカタールなどを経て、著者の故郷であるアメリカで終わります。日本を訪れていない
のが少し残念ですが・・・。 
 街の様子や食べ物、景色、人々との会話の描写は居ながらにして世界旅行に行ったような 
気分になります。幸福についての考えも人それぞれ、国それぞれ。著者自身の考えも随所に 
述べられていますが日本人である私にはそれさえも新鮮に感じます。 
 旅行気分を味わいつつ幸福について考える。そんな時間もまた「しあわせ」なのかな、と思っ 
たりもします。 (谷)
世界しあわせ紀行
エリック・ワイナー 著
●早川書房
●544P 
●ISBN 9784150504663
●本体1,100円+税
 

一年間したい
 もし、一年かけて世界一周することができたなら・・・って一年も休めないよ!!という身も
蓋もないことは言わずに、一年間飛び回るためにしごくまじめに作られた世界一周本です。
なので、本当に行けるように考えられた順番で絶景が載っています。 
 CGかと思うような幻想的な景色から生活感のある美しさまで、いろいろな絶景を取り揃え
ています。印刷されている紙の質感も変にテカテカしていないのがよいですよ。
 一日一ページずつ読んで一年で一周するもよし、自分や家族の誕生日をチェックするの
もよし。行ったことがある、行ったことがないと言いながら読める人は羨ましいですね(笑)
 一年も休みを取れないという人もご安心を。日本からの最低日数と旅費も載っています。 
 (大) 
365日世界一周絶景の旅
TABIPPO 編集
●いろは出版
●384P 
●ISBN 9784902097993
●本体3,400円+税
 

スーパーグルメ
 旅のお供にちょっと変わり種の食ガイドをご紹介。目的地はなんとスーパーマーケット!
 日本全国のスーパーマーケットを訪ね、見て、聞いて、食べてみた一冊。その土地ならで
はの食材や食べ方から「これ絶対買いたい」と思うものまで、一度は見たい、食べたいもの
がズラリ。 
 名物や名店の食べ歩きも楽しみですが、散歩がてらスーパーを覗いてみるのも面白そう。
思わぬ逸品に出会えるかもしれません。
 もちろん読むだけでも楽しい。あれこれ想像しながら旅する気分を味わってください。 
 (み) 
地元スーパーのおいしいもの、旅をしながら見つけてきました。
47都道府県!
森井 ユカ 著
●ダイヤモンド社
●208P 
●ISBN 9784478060049
●本体1,600円+税
 

どうしてもが離せない!!
 関東ローカルで深夜放送されているクレイジージャーニー(富山は現在放送未定、復活
希望)
 最初見たとき、これは放送していいのか?と思うような、最近のTV局の自主規制をぶち破
るような衝撃でした。
 アフリカやブラジルのスラム街、噴火している火山の火口ギリギリの場所、リヤカーで地球
踏破北極圏人力横断など普通の旅行では絶対行かない、いけないような場所に訪れている
どうかしている、まさにクレイジーな(でもちょっと憧れます)人達の様子を紹介している番組 
です。 
 異例の大ヒットで現在4巻までDVD発売中です。 (山)
クレイジージャーニー 1
●よしもとアール・アンド・シー
●205分
●本体2,750円+税(DVD)
 

内京都旅行
 京都が好きです。人気の観光地ですから好きな人は多いはず。私も数年前から年に一度
は訪れます。神社仏閣を訪ねて静寂に身を置き、京料理に舌鼓を打ち、鴨川の川べりをそ
ぞろ歩けば、日頃の疲れを忘れて豊かな気持ちになって・・・なんてことは全くありません!
 サンダーバードが金沢発になってから関西方面に行くのは大変になりました。金沢駅まで 
新幹線に乗り二十分後には乗り換え。京都着は九時ごろなのでイノダコーヒーのモーニン
グもその後の予定によっては泣く泣く割愛。観光客も多い京都ではお寺の景色より人の頭
の方がよく見えます。京料理は高級ですからお財布と相談しつつ、川べりのお散歩は疲れ 
た足には厳しいのでいたしません。
 なのでもっぱら最近は脳内京都旅行。ガイドブックで覚えた地図と経験をトレースして京都 
の喫茶店のモーニングから観光、お買い物までをイメトレしています。「そうだ、京都行こう」 
となったら『おとなの京都本』を手にあっという間に脳内では富山駅を出発します。お金をか 
けずに旅行気分、とは言っても時間もお金もない者の負け惜しみかも。今年こそはリア充で 
と心に誓う毎日です。 (藤) 
おとなの京都本
京阪神エルマガジン社 編
●京阪神エルマガジン社
●112P 
●ISBN 9784874355138
●本体780円+税
 

 
ドライブするならSuchmos!♪おすすめアーティスト情報♪
 
二十代と四十代はがっている? 
 今年の音楽業界をすでに牽引しているSuchmos(サチモス)。「小気味良いファンクのグル
ーブ感」「転がるようなエレピの自由度」「クラブジャズのスタイリッシュ感」これらの要素を含
んだ音楽は若い人のものだけではなく、感度のよい四十歳以上の大人からも大きく支持を
得ているようです。
 近年のクラブサウンドと大きく異なり、ひとつひとつの音が生の楽器から鳴っているというこ
と。数字で打ち込むビートにはない心地よさ。それが二十代には斬新で、ジャミロクワイ、イン
コグニート、ジャイルス・ピーターソン等を通ってきた素敵な四十代の大人には「帰ってきた」
と思わせる心地よさがあるのだと思います。
 Suchmosといい、平野ノラのバブルネタといい、二十代と四十代には繋がるポイントが多い 
気がします。 (堀) 
 
海に 
 旅は苦手。だけどドライブ好き。よく行くのは海。春夏秋冬いつでも砂浜でぼぉーとしている。
邪道かもしれないけどドライブも砂浜の散歩も音楽が必要不可欠。誰もいなければ歌う(笑)
昨年末からずっと聴いているのは『Suchmos』のファーストアルバム。
 ジャズ?ヒップホップ?ボーダレスな音楽に自然と身体が揺れてしまう。ボーカルのYONCE
の歌にドキドキする。「なぜ?」「どうして?」戸惑っている間にセカンドアルバムが発売。そし
て瞬く間にメディアで引っ張りダコ。老若男女が「グルーヴィーでカッコいい!」と絶賛。地元
横浜の強いソウルで結ばれたブレイク必至の新世代バンド。実はキーボードのTAIHEIは氷見
市出身。そうか!海の匂いに誘われたんだ! (三) 
THE KIDS(通常盤) THE BAY
Suchmos
Suchmos
●スペースシャワー
  ミュージック
●52分52秒
●本体2,500円+税
●スペースシャワー
  ミュージック
●51分41秒
●本体2,300円+税
 

お母さん、元気して!
 母と二人だけの旅行というと車で行くことが多い。母の愛するアイドルグループLIVE参戦
の道中はそのCDで予習して、前回のLIVEDVDを流してテンションを上げて向かう。途中
のSAでは漏れ聞こえる音楽が同じ方々を見かけ嬉しくなった。車の中で見られるから、ド
ラマや映画以外の映像はDVDで購入していた。 
 「もう車でLIVEにも行かないし、ブルーレイの方にする。きれいだし。」最後のクリップ集を
ブルーレイで購入した理由を聞いてさみしく思った。
 また音楽DVDを車内で流しながら母と二人ドライブしたい。 (野) 
Clip! Smap!コンプリートシングルス
SMAP
●ビクターエンタテインメント
●276分
●本体5,800円+税(DVD)
●本体6,800円+税(BD)
 

える旅のお供
 旅のお供にするのなら、荷物が多くても負担にならない、薄くて軽い文庫本がいいですよ
ね。加えて内容も重要です。暗い話は旅の楽しい気分をそいでしまいそう。移動が多い状況
ではミステリなど、「一度読んだら止められない」話もかえって困ってしまいます。
 それらの条件を満たすのは、やっぱり笑えるエッセイ集ではないでしょうか。中でも一つ一
つの話が短く、途中で読み止めやすいものが旅向きかと思います。
 朝井リョウさん、星野源さんは、ともにその道で押しも押されもせぬ地位にいる方ですが、 
書くエッセイは自虐とユーモア満載です。思わず吹き出してしまう話の数々は、旅先でトラ 
ブルに見舞われたとしても気分を明るくしてくれそうです。
 ただ一点、朝井さんはお腹が弱い方なので、そういったお話も少なからず出てきます。グ 
ルメ旅には向かないかもしれないのでご注意を。 (仁)
時をかけるゆとり そして生活はつづく
朝井 リョウ 著
星野 源 著
●文藝春秋
●271P 
●ISBN 9784167902537
●本体550円+税
●文藝春秋
●204P 
●ISBN 9784167838386
●本体580円+税
 

「強運」の訣とは
 『成功している人は、なぜ神社に行くのか?』は今話題のベストセラーですが、同じ開運と
いうカテゴリの中でも気軽に読めそうなのが手相芸人島田秀平の新書です。はたして強運
を鍛えるとはどういうことか。例えばお財布を無くしたとしても不運とは考えず引きずらない。
どんな状況や環境に置かれても前向きに取り組むということが大切ということのようですが、
これがなかなか難しい。落ちていく気分をスパッと切り替えることによって運気も上がる。気
の持ち方ひとつで強運が鍛えられるということなのでしょうか。
 巻末にはお得意の手相の欄もあるので左手を凝視しながら楽しめる一冊となっています。 
 (中) 
成功している人は、
なぜ神社に行くのか?
「強運」の鍛え方
八木 龍平 著
島田 秀平 著
●サンマーク出版
●341P 
●ISBN 9784763135643
●本体1,500円+税
●SBクリエイティブ
●216P 
●ISBN 9784797389531
●本体800円+税
 

走れ!気機関車
 鉄道と言えば、黒いボディでお馴染みの、あの蒸気機関車に憧れています。子どもの頃に
見た、窓の向こうを走る黒い車体。市内の大きな公園には廃止された機関車があって、「カッ
コいいなぁ」と子ども心に思っていました。そんな蒸気機関車を思い返してみて驚きの事実
が。蒸気機関車は私が幼い頃には廃止され、運行は無いというのです。臨時運行はあった
ようですが、それも私が生まれる半年程前まで。更には公園の機関車はもう解体されてしま
い、見ることは出来ないようです。さてあの家の窓から見た、黒い機体は・・・ただの想像な
のでしょうか。思い出の車体も無いとなると何とも寂しいです。
 思い出・疑問の残る蒸気機関車。現在も運行されているところがあるということで、一度乗
ってみたいものです。 (今)
走れ!!機関車
ブライアン・フロッカ 著
●偕成社
●56P 
●ISBN 9784033483405
●本体2,400円+税
 

 
第2回・私の挫折本 -『深夜特急』編-
 
 沢木耕太郎の『深夜特急』といえば「バックパッカーのバイブル」とも呼ばれる、紀行ノンフ
ィクションの金字塔です。私自身、大学を出たばかりの頃に「若者たるもの、これを読まね
ば」と勇んで手に取ったものの敢え無く挫折・・・。
 インドのデリーからイギリスのロンドンまで、乗り合いバスでの旅を目指した文庫版全六巻
に渡る物語。そんな本作のどこで躓いたかというと、第一巻の「香港・マカオ編」まで。ってイ
ンド行ってないじゃない!?はい。私の沢木耕太郎はまだスタート地点にも立っていないの
です。
 インドまでの経由地として立ち寄った香港・マカオ。そこで沢木少年は「大小」というサイコ 
ロ博奕にはまり思わぬ長居をしてしまいます。そんな猥雑な街の熱気に中てられたのか、
なぜだか何度読み返しても、そこから全然前に進まなくなってしまったのでした。
 今や30箇所もの世界遺産を半日で回れるおしゃれな観光地としても人気のマカオ。その
表と裏の顔の対比と時代の変化を楽しみながら再挑戦してみようかな、と思い始めていま
す。 
 今度こそ。進め!耕太郎。 (都)
深夜特急 1
沢木 耕太郎 著
●新潮社
●238P 
●ISBN 9784101235059
●本体490円+税

の直木賞受賞
 第156回直木賞は恩田陸著『蜜蜂と遠雷』に決まりました。六回目のノミネートにして悲願
の受賞です。
 物語はピアノコンクールを舞台にした青春群像劇。いろいろな人物の視点で語られていき
ますが、中心にいるのは四人の出場者。正規の音楽教育を受けていないジン、かつての天
才少女・亜夜、名門ジュリアード音楽院期待の星・マサル、楽器店勤務の妻子持ち・明石。
コンクール出場オーディションから三度の予選そして本選と、出場者たちがしのぎを削りま
す。
 他の出場者と戦うというよりは、コンクールという特殊な雰囲気のなかで自分のポテンシャ 
ルを引き出すための自己との戦い。そのなかでお互いの演奏に触発されて化学反応のよう
に成長していきます。それぞれの音楽への情熱がこれでもか!と語られるけれど、すぐに 
別の視点に移っていくことで適度に冷静になり、結果としてラストまで出場者を身内のように 
見守っていました。 
 私自身は残念なことにあまり良い耳を持っていませんが、こんな風に音楽を体験できたら 
どんなに素晴らしいとこかと思いながら本を閉じました。 (牧) 
蜜蜂と遠雷
恩田 陸 著
●幻冬舎
●507P 
●ISBN 9784344030039
●本体1,800円+税

一つ屋根の下にれて
 同じ家で暮らすいわゆる「一つ屋根の下」モノのコミックに弱い。古いところから言うと『め
ぞん一刻』、現在なら『LDK』、話題になった『逃げるは恥だが役に立つ』や、最新ものだと
『斎王子兄弟に困らされるのも悪くない』もおすすめだ。男女が同居する事によって起こる、
現実には起こりにくいエピソードの数々にありえないと思いつつもやはり胸キュンしてしま
う。
 その中でも、『椿町ロンリープラネット』を推したい。
 母のいない女子高生ふみは父親が借金返済のためマグロ漁船へ乗り込んだ事をきっか
けに年上小説家・暁の家へ住み込みで家政婦をするというある意味最近にはないようなベ
タな設定もいい。
 孤独な少女ふみと、無愛想で鈍感、でも時に優しいという惚れずにはいられない要素を持 
ちまくりの暁が徐々に心を通わせていく様子が絶妙な距離感と共に描かれていて胸にじん 
わりと響く。 
 いないとわかっていても、こんな人と暮らしてみたいと一瞬思ってしまい、やはり「一つ屋
根の下」モノは危険だと実感した。 (米) 
椿町ロンリープラネット 1
やまもり 三香 著
●集英社
●186P 
●ISBN 9784088454290
●本体400円+税
 

な内容
 夜になるとばけものになる僕、夜の学校で同じクラスの矢野さんに出会い夜休みの時間を
ばけものの姿のまま一緒にすごすようになるというファンタジーのような設定で始まります。
しかし学校でのいじめが話の中心です。(矢野さんは学校でいじめにあっている)。中高生に
とって世の中の正しさよりもクラスのことのほうが正義、自分を守るためにいじめる側にまわ 
るなど、人の心の闇が描かれています。
 この世で一番残酷なのは人かもしれませんが、ひどい状況のなかで思いやりを持ち、状
況を打開していく一歩を踏み出すのも人です。
 ラスト主人公が、決断して一歩を踏み出すところで終わります。この後主人公がどうなるの
か、ばけものは何であったのか、謎のまま終わった部分があり、気になる作品です。
 (京)
よるのばけもの
住野 よる 著
●双葉社
●256P 
●ISBN 9784575240078
●本体1,400円+税
 

れられた思想家 Vol.2
 2016年が歿後50年だったこともあり17年にかけて、関連本の発売が続いている小泉信
三は戦後しばらくの時期であれば、誰もが知っている存在だった。数多くの著作を遺したが、
戦後のそれは国民への啓蒙活動としてであった。その一つ『共産主義批判の常識』(絶版)
は大ベストセラーとなる。天皇陛下の家庭教師を務め、「殿下の先生」と言えば、小泉のこと 
を思い出す方もおられるだろう。
 これまで小泉の思想が語られることは少なかった。戦前、戦後を通したマルクス主義への
批判・サンフランシスコ講和条約時の単独講和論・日米安保の肯定・新仮名遣いへの懸念
など「保守」派の論客というイメージが強い。一方で、「平和を合理的に追求する、社会、経
済の諸制度の改革に熱心な進歩主義者」という面もあった。射程の広い言論活動の一面を
取り上げると、総体としての小泉の思想が矮小化される恐れがあった。本書は、戦前・戦中 
・戦後を生きた小泉の思想を通した昭和思想史の形をとる。 
 「保守」「リベラル」という曖昧な言葉が飛び交う現代において、「解き明かされた」小泉信三
から受け取れるメッセージがあるかもしれない。 (熊)
昭和思想史としての小泉信三
楠 茂樹 著 楠 美佐子 著
●ミネルヴァ書房
●392P 
●ISBN 9784623077373
●本体4,000円+税
 
 

 編集後記
 今回は「旅」特集でお送りしました。旅の計画を立てる時はまず本屋で情報収集!
 ぜひお近くのブックスなかだをご活用ください。