(2015年8月15日号)  PDF版
(back numberで表示されている2013年10月15日号までの税込金額は、消費税率5%で
計算されています。)
  

主な記事から
 新譜にときめく時代がやってきた  月収3万円のファッショニスタたち 
 今月のオススメ文庫 

 
新譜にときめく時代が再びやってきた
 
 先日「大人の音楽談義ナイトフライ 録音芸術の作法と鑑賞法 〜周到なプロダクションと演
奏家の貢献について〜」というトークショーに行ってきました。昨年同タイトルの書籍を上梓し
た音楽プロデューサー冨田ラボがナタリー取締役でベーシストの唐木元を聞き手に、アルバ
ム「ナイトフライ」の制作秘話や楽曲分析から、現在の音楽シーンまでをレクチャー。大変た
めになるひとときでした。
 「ナイトフライ」、ドナルド・フェイゲン及びスティーリー・ダン、各スタジオミュージシャンや録
音の手法に関しては本書を読んでいただくとして、このトークショーでお二人が一番熱く語っ
ていたのが、ここ四年くらいの新譜がヤバすぎる、ということでした。
 注目点は一拍五連のリズムの台頭。これを基底に使いながら、その上で偶数分割のリズ 
ムでフレーズを奏でたり、ビートに対してスクエアに行くかと思えば、なまってみたりといった 
ことを一定の繰り返しの中で自在に操れ、しかも演奏がグルーヴしているということがデフォ 
ルトになってきている。変拍子特有の奇異な感じを意識しないで、それを当たり前に演奏した 
り聞いたりできる世代のミュージシャン/リスナーたちがどんどん新しい音楽を作っている、と 
いうのです。だから、彼らの新譜が楽しみでしょうがない、と。 
 そうした演奏や耳の進化はどのように起こるのか?その源流が「ナイトフライ」にある、とい 
うのが本書の眼目のひとつです。シーケンサ、サンプリング、ループなどの機械音楽の導入 
とそれにただ合わせるだけではなくて、プロデュース・作編曲・エンジニアリング・演奏の各要 
素で機械と人間技が高度にミックスされた結果、キメラが生み出された。そんな異形の「録音 
芸術」が多くの人に繰り返し聞かれる(何千回も何万回も)。その過程を経て異形なものがだ 
んだんとデフォルトになっていき、次の進化を生むのだ、と。
 紙幅も尽きたのでこのへんで。 (沢)
ナイトフライ 録音芸術の作法と鑑賞法
冨田 恵一 著
●DU BOOKS
●291P 
●ISBN 9784907583095
●本体2,000円+税
 新譜が気になるミュージシャンについては、お二人のツイッターなどでご確認ください。 
 

現代版 北海道栗毛
 「これ読んで、北海道に行った気になれば?」そう言って夫が一冊の文庫本を差し出した。
なになに、『函館本線へなちょこ旅』だとぉ!?
 私がいつもうっとりとしながら旅のチラシを見ているわけは、旅行したいからなの!行った
気分になりたいからではありません。こんな本でごまかされないぞと抗議したのは言うまで 
もない。
 ぷんすかしながらも前書きを開くと、むむ、おもしろそう!札幌駅から函館本線の全駅を訪 
ねながら函館駅まで歩くという企画。悔しいがこれが読まずにいられようか。 
 北海道在住の著者あざらしさんと、相棒ぶぶまるの掛け合いの妙は、弥次さん喜多さんも
真っ青の、まさに北海道中膝栗毛。あっちに寄ったり、こっちで休んだり、そのへなちょこぶ 
りに「これで着くのか?」と心配になってくる。休憩ばかりしているので、観光客がまず行かな 
いようなお店が次々と出てきて、これがまたおいしそうなんだな。 
 夫よ、残念ながら一層北海道に行きたくなってしまったぞ。 (澤) 
函館本線へなちょこ旅
舘浦 あざらし 著
●双葉社
●302P 
●ISBN 9784575714371
●本体630円+税
 

の時代到来
 何年も前になりますが、背中に「砺波極楽」とプリントしてあるシャツを着た暴走族を同市内
で目にしたことがあります。「そんなに住みやすいのか、砺波?」と当時思ったものでした。し
かし、砺波市は「全都市住みよさランキング」(東洋経済新報社が公表)では県内ナンバー1
に位置、全国的にも驚くほど上位の凄い街です。その砺波市についにイオンモールがオー
プン。そして、お隣小矢部市に北陸初のアウトレットパークがオープン。砺波周辺で買い物・
用事が事足りてしまうのでは?という勢いで、ますます住みやすいところになりました。新幹
線の駅こそありませんが、今年、砺波の時代が到来ではないでしょうか。砺波地区に店舗の  
ある書店として、文化面での住みやすさに貢献していきたいものです。 (矢)
 ベストセラーから専門書まで充実している砺波店に、是非ご来店ください。 
 

本を読むの人生は深い
 新潮・角川・集英社の夏の文庫フェアは30年前から続き、すっかり書店の夏の風物詩に
なっている。各社趣向を凝らした限定の装丁やノベルティがあり、飾り付けは担当者の技の
見せどころだ。
 今年のフェアの中からおすすめを一冊。林真理子『本を読む女』は、本が大好きな少女・
万亀が、ままならない現実と向き合いながら激動の時代を前向きに生き抜いた半生を描い
ている。万亀は著者の実母がモデルになっており、その生き様は確実に今の林真理子に
つながるルーツだと確信させる。著者の母親への愛情や敬意、そして書くことに対する覚 
悟を感じる力作で、本を読む喜びや切なさがぎゅっと凝縮されており奥深い味わいがある。 
 魚津店ではレトロでかわいい装丁をもとに作ったPOPと共に展開中なので、是非手にと 
っていただきたい。 (坂) 
本を読む女
林 真理子 著
●集英社
●292P 
●ISBN 9784087453287
●本体560円+税
 

 
月収3万円のファッショニスタたち 
 アフリカのコンゴ共和国に世界から注目を集めているおしゃれ集団がいるのをご存知だろ
うか。彼らは「SAPEURS(サプール)」と呼ばれる紳士同盟で、その歴史はフランスの植民
地時代にまで遡る。フランス流のエレガントな着こなしに憧れ真似をはじめたコンゴ人が、 
ついにはポール・スミスも自身のブランドの参考にしてしまうほどの独自のスタイルを打ち 
出した。
 彼らの写真集を見ると色づかいの斬新さや立ち居振る舞いに目を奪われる。貧困が目に
見えて分かる町並みに、ハイブランドのスーツを纏い葉巻をくゆらす男たち。なんともいえ
ないアンバランスな感じがたまらなくかっこいい! 
 見た目だけではなく、サプールには生き方も重要だ。「暴力を振るわない。」「差別をしな 
い。」といった掟に従い、常に住民の尊敬に値する人物であることを求められる。
 貧しい国で、そんなことは微塵も感じさせず誇らしげに堂々とポーズを決める彼らを見て
「ジェントルマンの文化はヨーロッパにしかない。」と考えていた私は深く反省し、紳士の国
にコンゴ共和国を追加した。 (斉)
SAPEURS THE GENTLEMEN OF BACONGO
ダニエーレ・タマーニ 著 宮城 太 訳
●青幻舎
●1冊 
●ISBN 9784861524998
●本体2,300円+税
 

きょうのおやつ 
 昔からフルーツゼリーより、コーヒーゼリーが好きだった。濃い琥珀色のツルリとした表面
にクリームを流し込み、スプーンでやや大きめにすくう。クリームがこぼれないよう注意深く
口に運んでクラッシュすると、はじめにミルクの甘さが、その後で珈琲のほろ苦さが口いっ
ぱいに広がるのだ。 
 久しぶりにその感覚を思い出したのは、この『コーヒーゼリーの時間』を手に取ったから。
関東・関西の厳選されたカフェや洋菓子店のこだわりのコーヒーゼリーを紹介している。ふ
るふるなのやあえてブラックなもの、フルーツを一粒のせたものやパフェ仕立てなどオーナ
ーさんたちのこだわりや裏話も読物として面白い。夏の京都旅行ではいつもかき氷を楽しみ
にしているけれど、次回は高木珈琲でコーヒーゼリーパフェを注文してみようかな。でもそれ
まで待ちきれないので、今日はコンビニに寄って帰ります。 (藤)
コーヒーゼリーの時間
木村 衣有子 著
●産業編集センター
●180P 
●ISBN 9784863111165
●本体1,400円+税
 

迷いながらも
 最近、選択を迫られる機会が増えてきた。仕事・結婚・家族・・・いつでも最良の選択をした 
い。これまでもその都度決断をしてきたはずだ。だが今、迷い前に進めなくなっている自分 
を感じる。
 西炯子を読むには、しんどい時だったのかもしれない。今回の新刊は特に心に刺さる。結 
婚観がこじれた女性・美由紀が婚活する話だが、考え方や迷いに共鳴してしまった。
 読書カフェのノートに想いを綴り、見知らぬ男性・高橋からの返信も胸に響く。「心が決め 
ることだけに従え」。 
 心にだけ従いたい。けれども環境や状況によって流されて最終的には本心が自分でもわ 
からなくなっている人も多いのではないだろうか。 
 美由紀が高橋に出会う事によってどう変わっていくのか。自分の心も整理しながら見守っ
ていきたい作品だ。 (米) 
カツカレーの日 1
西 炯子 著
●小学館
●192P 
●ISBN 9784091374349
●本体429円+税
 

今月のオススメ文庫
 女の園、後宮・・・イメージされるのは華やかではあるが、女のドロドロした愛憎劇ではない
でしょうか。ただしこの作品は一風変わった後宮のお話。
 主人公は33歳で後宮に入れられてしまうのですが、理由はそれですか!?と思わず口
に出してしまうほどの一味違った理由があるわけです。女将軍という肩書きでも分かるよう
に、主人公は男勝り。性格もかなりサバサバ系。後宮の定番、暗殺・画策などもでてきます
が、対処の仕方が男前!!後宮ならではのドロドロさを見事にかき消してしまいます。また 
皇帝と主人公の掛け合いも必見!皇帝側にエールを送りたくなる方が多いと思います。 
 ドロドロ苦手という方にも安心して読んでもらえる珍しい後宮物語です。 (湯) 
紅霞後宮物語
雪村 花菜 著
●KADOKAWA
●269P 
●ISBN 9784040706269
●本体580円+税
 

のはなし
 先日TVの情報番組で、「親の財産がどれくらいあるか把握しているか?」という話をやっ 
ていた。インタビューに答えていたほとんどの人が知らないとの答え。私もそういえば聞い
たこと無い、というか聞けない。「お金の話をするのはなんかいやらしい」と思ってしまうか
ら。
 だが親の財産を知り、自分の財産を知り、お金のことを考えることは、親や自分、ひいて 
は家族のことをちゃんと考えることなのだと本書を読んで思わされた。
 また本書では、なかなか聞きづらい親の財産の聞き出し方も、アドバイスしてくれていま
す。40万部突破の前著『お金が貯まるのは、どっち!?』もおすすめ。
 しかし、日本の金融資産の3分の2を60代以上の方達が持っているとは知らなかった。
 (史) 
家族のお金が増える
のは、どっち!?
お金が貯まるのは、
どっち!?
菅井 敏之 著
菅井 敏之 著
●アスコム
●214P 
●ISBN 9784776208655
●本体1,300円+税
●アスコム
●223P 
●ISBN 9784776208228
●本体1,300円+税

ベストアルバムどれをう?
 今夏はベストアルバムを発売したアーティストが何組かあった。ベスト盤、となると気にな
るのは、どんな曲が入っているかということだ。
 よく見られるのは過去の名作シングルをまとめたもの。今年活動三十周年を迎えたTUBE
の「BEST of TUBEst」や、DREAMS COME TRUEの「私のドリカム」もこの例だ。一方で、
シングル曲を一つも入れなかったバンドもある。気鋭のロックバンドUNISON SQUARE GAR 
DENの「DUGOUT ACCIDENT」は、ライブでお馴染みの曲が集まったファンにはたまらない 
一枚。何かのテーマに沿って曲を選ぶ方法もある。倖田夾未さんの「SUMMER of LOVE」 
は「夏」というテーマで過去の曲をまとめている。 
 懐かしい曲を聞いて青春時代を思い返すもよし、最近ファンになった方は入門として買っ
てみるもよし。ベスト盤は曲数がたっぷり入っていることが多いので、行楽のお供にもぴっ
たりだ(TUBEやドリカムのベストは何と五十曲入り)。ぜひ店頭にて、お気に入りの一枚を 
探してみてください。 (堀) 

 編集後記
 冨田ラボといえばキリンジのプロデューサーだったということくらいしか知らなかったので
すが、MISIAの「Everything」も彼の仕事だったのですね。「大人の音楽談義」次回はピー
ター・バラカンさんです。って、なんの宣伝だ!?