(2014年5月1日号)  PDF版
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主な記事から
 海部町のユニークな人々  「孫子」を現代に活かす  ジョン派? ガイド派?

私は、字に
“軍隊の読み方がある”
とは 信ぜられない  東堂太郎
人のユーモア
 先日両親が長浜へ旅行するというので、木之本宿の酒「七本槍(シチホンヤリ)」を土産に所
望した。以前琵琶湖を周遊した際、最後に訪れた冨田酒造のこの酒がいたく気に入ったから
だ。その時は知らなかったのだが、「七本槍」はかの北大路魯山人も愛飲した酒で(店内に篆
刻が飾られていたのに気づかなかった)、文章でしか知らなかった『魯山人味道』の一端に触
れた気がしてなんだか嬉しかった思い出がある。
 銘酒「七本槍」の名は、無論“賤ヶ岳の七本槍”からとられている。本年の大河ドラマ『軍師官
兵衛』でも盛り上がるであろう“賤ヶ岳の戦い”で武功をあげた加藤清正、福島正則、片桐且
元、脇坂安治、加藤嘉明、平野長泰、糟屋武則の七人。戦国時代に疎い筆者ではあるが、彼
らの名だけはすらすらと書き記すことができる。それはなぜかと言えば、“巨人”に教えられた
からだ。
 去る三月に97歳で大往生をとげた大西巨人には、名前のごとく巨大な長編『神聖喜劇』があ
る。軍隊生活を通して見えてくる帝国陸軍、ひいては天皇制の矛盾・不条理・滑稽さを、四半 
世紀を費やし徹底的に描き切った傑作だ。と書くと何やら重苦しい印象を与えるかも知れない
が、さにあらず。硬質な部分とユーモラスな部分のバランスが絶妙で、個人的に最も笑えるの 
が以下のくだり。 
 「砲兵操典」には数字の正確な伝達のために読み方が定められている。それを利用して軍曹 
大前田は新兵いびりをおこなう。「相撲の決まり手は何手ある?」。質問に「シジュウハッテ」と
答えてはいけない。拳骨が飛んでくる。軍隊的正解は「ヨンジュウハッテ」。同様に「秀吉の家 
来で槍の達人が何人いたかな?」の質問には「賤ヶ岳のナナホンヤリ」と答えなくてはならない
のだが、新兵たちは頭が回らない。主人公東堂は気づいて反撃を企てるのだが・・・。軍曹の
名は文七(ブンシチ)。「班長殿の名は大前田ブンナナ殿であります」と声にしたいが、軍隊だ
けに心中つぶやく他はない東堂だった。
 硬軟併せもった巨人の冥福を祈りたい。 (健)
神聖喜劇 第1巻 魯山人味道
大西 巨人 著
北大路 魯山人 著
平野 雅章 編
●光文社
●578P 
●ISBN 9784334733438
●本体1,048円+税
●中央公論新社
●394P 
●ISBN 4122023467
●本体743円+税
軍師官兵衛 1
前川 洋一 作
青木 邦子 ノベライズ
●NHK出版
●300P 
●ISBN 9784140056431
●本体1,400円+税

からウロコ!
 “特別作業班(プロジェクトチーム)”という単語を見たのは、江戸時代中期を舞台にした歴史
小説『上杉鷹山』。破産状態の藩の改革に主人公が邁進する話で、発行当時、ビジネス良好
書とも言われただけに現代時事用語が随所に散りばめられているが、歴史小説として楽しみ
たい私としては、「江戸時代にプロジェクトチーム・・・、もう少し違う表現なかったんかい」とツッ
コんだり。(この小説自体はとても面白いです。念のため!)
 『考証要集』はNHKの時代考証を担当している大森洋平氏の考証用資料をまとめたもの。
五十音順で様々な単語の解説とOK・NGな用法について書かれており、考証者用の虎の巻
のような体裁だ。実際の時代劇ドラマでのエピソードも織り交ぜていて、ドラマの映像を思い
出しながら楽しく読める。ちなみに本書の裏表紙には、「目からウロコの歴史ネタが満載」と紹
介されているが、“目からウロコ”は新約聖書が由来で明治以降に広まった言葉なので、時代
劇で江戸っ子が使ったらおかしいとのこと。 
 歴史小ネタ集としてかなり面白い一冊。この本を手に、時代劇や再現ドラマにツッコミを入れ 
るのが、更に楽しくなりそうだ。 (有) 
小説 上杉鷹山 考証要集
秘伝!NHK時代考証資料
童門 冬二 著
大森 洋平 著
●集英社
●684P 
●ISBN 4087485463
●本体960円+税
●文藝春秋
●327P 
●ISBN 9784167838942
●本体620円+税

この自殺率のさには理由がある。
 著者の「日本の自殺希少地域における自殺予防因子の研究」という論文を簡単にまとめた
のが、この一冊である。
 一見難しそうに見えるが、自殺率の低い町ならではの町民のユニークさが多く紹介されて
いて楽しく読めた。
 本書は、自殺率が全国でも極めて低いという徳島県にある旧海部町を著者が取材した記録
だ。海部町では、赤い羽根募金は集まらないらしい。もちろん単なるケチや分らず屋が多い
からそうなっているわけではない。ある方は、「わしはこの間、山車の修繕に大枚はたいた。
そんなわけの分らない物に百円でも出したくない」と言っている。周りに流されるようなことは
起こらず、個人の自由を何よりも尊重する。それが、この町の特性のようだ。
 海部町の取材記録は本当に驚かされることが多い。なんたって、この町はうつになっている 
知り合いがいると分ったら、「そしたら見に行ってあげなきゃね」と全員が口を揃えて言うような 
ことが起こるのだ。
 他には、自殺多発地域Aと比較して書かれている部分が多い。その中でも二町の差がはっ
きり出たのが以下の質問だ。「自分のような者に政府を動かせるはずがないと思うか?」。こ 
の質問で、海部町は動かせると答える人の比率が圧倒的に多かった。このように海部町の人
々は、政治に関わっていこうという意識が異様に強いのだ。
 海部町の自殺率の低さの理由とは一体何なのか? ここで紹介したことが一つでも気になる 
なら、本書から学べることは必ずあるはずだ。 (浩)
生き心地の良い町
岡 檀 著
●講談社
●214P 
●ISBN 9784062179973
●本体1,400円+税

イルドヤンキー
 若者の消費離れが嘆かれている現代で、優良消費者と呼ばれる人々がいる。それが、“マ
イルドヤンキー”である。ヤンキーなのにマイルドとは・・・。“カレーでプリン作り”位想像がつ
かないが、本書の著者は彼らおよび彼女らを二つに分けて説明している。
 一つは、いわゆる昔懐かしの不良ヤンキーに近い“悪羅悪羅系残存ヤンキー”。もう一つは
見た目は普通、地元と家族を何よりも愛する“ダラダラ系地元族”である。彼らはイマドキの若
者より積極的にモノを買い、趣味にお金を使うそうだ。
 本書を読みながら、“ダラダラ系地元族”に既視感をおぼえた。なぜだろうと考えると、正に
同級生がこの地元族にピッタリ当てはまるのだ。彼らは地元の学校を卒業し、地元で結婚式
を挙げ、小中学校の友達を30名程集めてバーベキューを開き、そしてそれをYouTubeにアッ
プロードしていた。大切な地元友達の結婚式は全身全霊をかけてお祝いのビデオメッセージ
を撮影する。(そしてなぜかそれもYouTubeにアップされている。)
 彼らの地元愛は強い。何もない地元だが、彼らにとっては大切な仲間と家族がいるこの場 
所が都会よりも大切なのだ。 
 小売業に携わる者として彼らの動向からますます目が離せない。 (渚)
ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体
原田 曜平 著
●幻冬舎
●220P
●ISBN 9784344983366
●本体780円+税

孫子は代でいうコンサルタント
 冒頭にあるとおり、孫子の教えを現代に活用する場合は具体的にではなく抽象的に考えな
ければならない。孫子はあくまで、“戦国時代における競争状態での原理原則”を示しており、
それを現代の社会にそのままあてはめるわけにはいかないからである。
 抽象的に考えるためには単純に教えをそのまま覚えるのではなく、その奥に隠された意図
をも読まなければならない。その意図を著者はわかりやすく示してくれている。
 「孫子」自体には単純に教えだけが書かれている場合が多く、読む人はその意図も考える
必要があり苦労する。「なぜ孫子は教えについて詳しく書かなかったのか?」という疑問に対
し、著者は「孫子は現代でいうところのコンサルタントだったので、全てを書物にさらけだして
は雇ってもらえなくなる。肝心なところは雇ってもらえれば教えます、というスタンスだったた
め書かなかったのでは」という考えを示している。私はこの説に納得したが、どうだろうか。
 第一部の孫子の教えの解説に対し、第二部は孫子の教えを現代でいかに活用するか、具
体事例を多くあげ、わかりやすい。『孫子』を読んだことがない方は是非読んでほしい。 
 (輔)
最高の戦略教科書 孫子
守屋 淳 著
●日本経済新聞出版社
●384P 
●ISBN 9784532169251
●本体1,800円+税

ブルクミュラーをっていますか
 “ブルクミュラー”という言葉。ピアノを小中と習っていた方は、ピンと来るのではないでしょ
うか。二十五の練習曲全てを思い出すことはできなくても、「アラベスク」「貴婦人の乗馬」と
聞けば分かるはず。これらの曲が弾ける日を楽しみに練習したという方は多いと思います。
 しかし、肝心のブルクミュラーについて語れる人は果たしてどの位いるのでしょう?出身地
は? いつの時代の人? 代表作は? 本書はそんな疑問に答えてくれる“ブルクミュラー愛”
が詰まった一冊。えっ、ブルクミュラーって人名だったの!?から始めるもよし。かくいう私
も何の知識もありませんでした。
 彼が活躍したのは19世紀のパリ。同時代の作家にはショパンやリストが有名ですが、だ
からといって彼らの陰に隠れてしまうにはもったいない! 超絶技巧を必要とせずとも家庭
で楽しめるドラマティックな楽曲を数多く提供してくれたブルクミュラーをもっと深く知るため
に、“ぶるぐ協会”なるものを始めた著者二人の情熱には驚かされます。
 また、日本にどのようにブルクミュラーが浸透していったのかに目を向けた章が面白い。
今では当たり前のように弾かれている練習曲、最初に日本に持ち込んだのは誰なのか?
これを読めば、日本のピアノお稽古ブーム〜最近のアレンジ曲まで知ることができるので
す。
 読後、ブルクミュラーの生涯をたどりながら彼の曲をおさらいすれば、また違った味わい
の演奏になるかもしれません。 (兼)
ブルクミュラー25の不思議
飯田 有抄 著 前島 美保 著
●音楽之友社
●255P 
●ISBN 9784276143333
●本体1,900円+税

はブロス派。
 あなたはジョン派? ガイド派? それともライフ派? なんの話かって? テレビ情報誌の話
です。
 レモンの表紙でおなじみ「ザ・テレビジョン」を筆頭に、テレビ情報誌といえば番組表やドラマ
の見所などが載っているのが定番ですが、番組表そっちのけで連載コラムでニッチな人気を
集めるテレビ誌、それが「テレビブロス」です。(隔週木曜発売)
 現在の連載陣も、岡村靖幸、松尾スズキ、細野晴臣×星野源(祝連載再開)、パフューム、
三浦靖子、「モテキ」の大根仁監督、などなど実に豪華。そんな多彩な連載陣の中、ワクサカ
ソウヘイの『夜の墓場で反省会』が待望の単行本化! 
 ワクサカソウヘイ? 誰? コント作家? やっぱり知らないなぁ・・・。そう思われるのも当然で 
す。失礼ながら、私もいまだに何者かよく分かっていません。でも、コラムは抜群に面白いで
す。みんなが薄々感じていながらも上手く言葉にできなかったような事柄、感情が、思いもか
けない発想で、でもちょっと卑屈に綴られていて、すっかりはまってしまいました。この人はこ
れからもっともっと売れていくはず!(と信じてます)。 
 ちなみに、富山県出身の作家、『ここは退屈迎えに来て』の山内マリコさんもブロスで連載
中。こちらも注目ですね。 (都) 
夜の墓場で反省会 ここは退屈迎えに来て
ワクサカ ソウヘイ 著
山内 マリコ 著
●東京ニュース通信社
●192P 
●ISBN 9784863363847
●本体1,500円+税
●幻冬舎
●259P 
●ISBN 9784344421882
●本体540円+税

 編集後記
 好んで書いている訳でもないのだが、追悼文が多くなるのは年のせい? 今号編集中には
ザルシア=マルケスも亡くなり、本紙第5号に書いた「文庫にならない本」のことを思い出し
た。2006年のことだ。バックナンバーを調べて気づいたが、あの頃は月刊だったのね。頑
張らねば・・・。