(2011年4月30日号)  PDF版

主な記事から
 皇室の秘密なのか?  倫理の話をしよう  ラブホの裏側今昔

この一点で、韓国は敬にたる国だと思う
 過日、今年度の新書大賞は発表され、『なぜ韓国は、パチンコを全廃できたのか』が九位にラ
ンクインしているのを見て驚愕した。なぜならパチンコがなくなるなんて想像もしていなかったし、
タバコをなくすより難しいと感じていたから。韓国はえらい。
 わたしはパチンコをやらないが、語るべきことがある。それは、以前わたしが担当をしていた店
のアルバイトだったK君のことである。当時富大生だった彼は、パチンコが非常に強く、月に万単
位のお金を稼いでいた。説明によれば、同級生に名人がいて、そのおこぼれに預っているとのこ
と。その名人ぶりは際立っていて、まず新しい台の特徴を掴むために十万単位で投資をする。
周りの台の動きを観察し、台を移るタイミングを計る。動体視力がよい。まだあったが忘れてしま
った。まぁ、特別な才能があったということだ。その名人がよく出る台や打ち方を教えてくれるとい
う。
 K君がアルバイトを辞めてしばらくたったある日、大きな買い物袋を持って店にやってきた。「パ
チンコで大勝したのですべて服を買った。今日限りでパチンコをやめる。」という。「小学校の先生
になるつもりで教育学部に入ったのに、今の状態では授業を受けている間は、お金を損している
ような気分になって身が入らない。このままでは駄目になる。」と続けた。
 そううまくいくかなと心配していたけれど、数年経って外商をしている同僚が学校を廻っていたら
「Aさんは元気か?」とわたしの消息を尋ねられたという。無事、先生になったということだ。その
後も彼は新しい担当者が行く度に、わたしのことを案じてくれていて、うれしい限りである。
 もう一人、わたしに非常に近い人物で、これまた知性と動体視力を使ってパチンコが非常に強
かったF氏がいる。有名国立大学の卒業生である彼のほうはうまくいかなかった。生来世捨て人
のようなところがあったが、そのとおりになってしまった。
 二人の差を意志の強さの差と思っていたわけではないけれど、『なぜ韓国は〜』を読むと、これ
は二人の意志の差の問題ではなく、国家の意志の差の問題であることがわかる。
 著者によると、パチンコはほんの一握りの人間の利益のために多数の人間が犠牲になるシス
テムだという。最近は不況のせいでパチンコのCMが多くなってマスコミは批判に及び腰だそうで
著者の活動の場も制限されている。そういう状況下、新書で論陣を張ることとなった。このせっか
くの言論が新書の洪水の中で危うく消えそうになっていたところ、ランクインで日の目を見た。
 地味な新書大賞の粋な計らいである。 (蛙)
なぜ韓国は、パチンコを全廃できたのか なぜ韓国は、パチンコを全廃できたのか
若宮 健 著
●祥伝社
●215P 
●ISBN 9784396112264
●税込798円

事実か構か
 世の中には実に様々な「衝撃的」な出来事がある。例えば各国の機密情報を暴いたウィキリー
クスなどはその典型であろう。個人的には、サングラス姿のダンディな寺尾聰と、それを外した時
のギャップが「衝撃的」ではあったが。
 今回紹介する本は、皇室ジャーナリストである著者が「三笠宮に双子の妹君がおられる」と聞
いたことから始まる。以来、何年にも亘った、奈良の寺院で暮らしておられる「皇女」とされる本人
や関係者への取材からは、様々な皇室の歴史的背景やお家事情が浮び上がるのである。
 とはいうものの、取材における「皇女」の様子は大変朗らかで、周りを明るくする人物像であった
ようでもある。そこからは、時代に翻弄されながらも、仏門で清らかに人生を務め上げたことが窺
え、かつ、我々には計り知れない重みさえ感じられる。
 もちろん、これを「事実」とするか「虚構」とするかは読者が判断されたら良いと思う。しかし、こ
のようなことが、歴史上あっても不思議ではないと思わせるのである。 (倉)
天皇家の隠し子 天皇家の隠し子 謎につつまれた悲劇の皇女
河原 敏明 著
●ダイナミックセラーズ出版
●357P 
●ISBN 9784884933388
●税込1,680円

当たり前な事に感したい
 欲しい物がある程度手に入れることが出来るようになったこの頃では、物は使い捨て、人は楽
して生きたいと考えがちである。かくいう私も「今日は働きたくないな」などすぐに思ってしまうの
である。
 この『秘密のスイーツ』の主人公である理沙もそんな普通の小学生。同級生に嫌なことを言わ
れ不登校になり、田舎に転校してくるところから物語が始まる。
 ある日、神社の石の柱に空いた穴に携帯電話を入れたところ、何故か66年前の戦時中の雪
子に繋がる。戦時中のことを知った理沙は雪子にお菓子を送り続けるという、タイムスリップな
話なのだが。
 現代の私達が忘れつつあるものをテンポよく思い出させてくれ、最後は淡い恋の予感すらさせ
て終わらせる。読後もじわりと暖かい気持ちにさせられる一冊です。児童書版と同時刊行
 (米)
秘密のスイーツ 秘密のスイーツ
一般書版
秘密のスイーツ 秘密のスイーツ
児童書版
林 真理子 著
はやし まりこ 作
いくえみ 綾 え
●ポプラ社
●150P 
●ISBN 9784591122051
●税込1,365円
●ポプラ社
●182P 
●ISBN 9784591122044
●税込1,260円

国会議員の
 政治家の仕事とはどのようなものだろうか。ドブ板選挙、国会質問・・・とイメージだけで、政治
家とは何をする人なのかよく見えてこない。
 本書は、林芳正、津村啓介という所属する議院も政党も違えば、二世議員かそうじゃないかと
いう、大きな違いがある二人が体験した職業としての政治を伝えてくれる。
 また、問題があれば叩かれてばかりの議員さん。どうして政治家を目指そうと思ったのかも描
かれており興味深かった。 (慈)
国会議員の仕事 国会議員の仕事 職業としての政治
林 芳正 著 津村 啓介 著
●中央公論新社
●284P 
●ISBN 9784121021014
●税込861円

その問いにえなんかない
 マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう』のブームで、政治哲学や倫理・道徳を考
える本の刊行が相次いでいる。
 筆者が個人的に面白く読んだのは永井均の『倫理とは何か 猫のアインジヒトの挑戦』。普段
めったに哲学書など読まないのですが、ねこぢるの表紙イラストと、川上未映子の「つまりはも
う、本当のことしか知りたくない人のための、とんでもない驚書!」という帯の惹向で購入。
 登場するのは倫理学のM先生、その講義を受講する祐樹君と千絵さん、そして猫のアインジ
ヒト。
 M先生による「プラトンとアリストテレス」(真の幸福について)、「ホッブズとヒューム」(社会契
約について)、「ルソーとカント」(自由について)、「ベンサムとミル」(功利主義について)、「現代
倫理学」(メタ倫理学と正義論)という各講義の合間に、アインジヒトが学生2人の講義への疑
問・不満に答えつつ独自の説を展開していく。(特権的に「ニーチェ」だけはアインジヒトが講義
してくれるのだけれど、それは何故なのかも考えてみてほしい)。
 究極の利己主義猫であるアインジヒトと道徳を擁護するM先生の直接対決が本書最大の見せ
場だが、そこに出てくる宮澤賢治『毒もみの好きな署長さん』という話が興味深い。毒もみ(川に
毒を入れて魚を獲る)を取り締まるべき署長さんこそが真犯人で死刑になる。「あぁ、面白かっ
た。おれはもう、毒もみのことときたら、全く夢中なんだ。いよいよ今度は、地獄で毒もみをやる
かな」と言って署長さんは死んでいく。そして最後の一文に、「みんなはすっかり感服しました」
とあり、物語が終わる。
 何故、自分の快楽のためだけに毒もみをした署長さんに、みんな感服してしまうのでしょうか?
そして利己主義と道徳は本当に相容れないのだろうか? アインジヒトによれば「あるもの」を持
ったときに解決は訪れるというのだが、その「あるもの」とは一体何か?
 本当のことが知りたければ本書を読もう。 (健)
倫理とは何か 倫理とは何か 猫のアインジヒトの挑戦
永井 均 著
●筑摩書房
●390P 
●ISBN 9784480093431
●税込1,155円

従業員はた!
 ヒトは“高度な知性”を持つ“動物”である。この“動物”としての本能や当然の生理現象は“知
性”の前では邪険に扱われることが多い。すなわち、とっても恥ずかしい。こと性に関しては、三
大欲求に名を連ねながら、隠され方が段違いである。隠す方法のひとつとして専用の施設を利
用する人も多いだろう。が、そこにもやはり従業員が働いている訳で・・・。
 本来、人には見せぬものである故、平均とか普通とかが大好きな日本人でも、かなり異質な
行動を起こす。いや、かなりぶっとんでいる。詳しく書くと年齢制限がかかるので割愛するが「日
本人はHENTAI」という言葉は信じずにはいられない。
 人の目を気にする人々が隠し続けた本性に驚かされるとともに、人の目からは逃げ切れない
ものだなと諦めさせられる本であった。年齢制限がかかる内容では断じてないので、安心して
お買い求め下さい。
 え、私の場合ですか? さぁ、普通だと思いますけどね。 (祥)
ラブホテル裏物語 ラブホテル裏物語
大月 京子 著
●文藝春秋
●276P 
●ISBN 9784167804015
●税込650円

新聞
 最近「2355」というテレビ番組を毎晩見ている。NHK教育テレビ深夜23時55分から放送され
る、5分間の短い番組だ。この番組を監修しているのは、同局「ピタゴラスイッチ」や人気絵本『コ
んガらガっち』 『もぐらバス』を作った佐藤雅彦氏である。彼の著作を調べてみると、面白いタイ
トルの本を見つけたので購入してみた。
 『毎月新聞』と題されたこの本は、毎日新聞の夕刊に月1回連載されていた記事を一冊にまと
めたものである。編集長(佐藤氏)曰く、「世界の激流をものともせずマイペース」に書かれた毎
月の記事は、これまで見ていた、出来上がった作品ではなく、それを作り出す佐藤氏の物事の
捉え方、考え方を垣間見られたような気分である。また、もちろん「作品」自体も、著者自ら筆を
取った挿絵や、一面見出しにも現れている。「文化の芋がゆ状態」 「6月37日」 「す、も×8、の
うち」など、これまた面白いキャッチコピーが溢れている。それぞれの記事の内容は、是非本書
で確認していただきたい。
 幼児から大人まで幅広い年代の人に「面白い」作品を作り続ける佐藤氏。今後の活躍にも期待
したい。 (絢)
毎月新聞 毎月新聞
佐藤 雅彦 文と絵
●毎日新聞社
●111P 
●ISBN 4620316180
●税込1,365円

食料自給のウソ
 読み進めていくうちに、ふつふつと怒りが湧いてくる。『日本は世界5位の農業大国』は、悪化
の一途を辿っている日本の“食料自給率”に隠されたカラクリを暴き、日本農業の衰退を招いて
いる本当の原因は何か、に言及した一冊だ。発売から一年以上が経過した現在も、じわじわと
売れ続けている。
 安価な輸入品との競争、若者の就農離れ、農業従事者の高齢化など、我々の食生活を支え
てくれている日本の農業は、多くの問題を抱えた“衰退産業”だと言われている。これまでは「食
料自給率」が上がれば、いいことずくめのように思われている。しかし、本書の著者は、この“食
料自給率”そのものがマユツバであると断言する。
 テレビも新聞も、あらゆるメディアがネガティブな情報をたれ流し、無闇に不安だけを煽る風潮
がある昨今。流されている情報を鵜呑みにし、安易に思考停止してしまうことが如何に危険か、
再認識させられる一冊である。  (法)
日本は世界5位の農業大国 日本は世界5位の農業大国 大嘘だらけの食料自給率
浅川 芳裕 著
●講談社
●189P 
●ISBN 9784062726382
●税込880円

しみにありがとう
 身長162センチの小柄な登山家、栗城史多の言葉です。
 六大陸単独登頂成功? 次はエベレストの単独登頂に挑戦? 強っ!
 最近ちょくちょくTVや雑誌でお見かけするが、小柄で気弱な人がどうしてこんなに強くなれたの
か不思議でなりませんでした。その答えがこの本にありました。
 極限の世界で不安や苦しみと向き合う中で生まれる心のメッセージ。それを収めた一冊です。
 ヒマラヤなど、世界の美しい山々の写真もなかなかの見ものですよ。  (堀)
NO LIMIT NO LIMIT 自分を超える方法
栗城 史多 著
●サンクチュアリ出版
●211P 
●ISBN 9784861139482
●税込1,470円

 編集後記
 地震が起きてTVはCMをせずに地震報道をしていた。この間の経費はどうやって賄うのかと思
っていたら、四日目にパチンコのCMが入った。報道機関も難しい状況である。