(2010年8月15日号)  PDF版

主な記事から
 七年半の宇宙の旅  家庭の理解を得るべし!  陽気な心というのは

『おとり捜査官』をめる。
 文庫のランキングをみると、湊かなえの『告白』がダントツのトップ。続いて佐伯や東野といった
ベストセラー作家の新刊と『美丘』 『東京島』といったメディア化作品が続く。
 この構図は角川春樹氏が自社の文庫の表紙を刷新し、『人間の証明』をヒットさせて以来、な
がらく書店の店頭を支配してきた。昨年、岩波文庫で出たボルヘスの『創造者』も表紙が天井を
仰ぐ著者のポートレイトになっているし、同じく岩波文庫の『ゲーテとの対話』が異様な動きをみ
せて、いぶかっていたら「ゲゲゲの女房」で取り上げられたとのこと。春樹氏の恩寵は岩波文庫
にも及ぶといったところ。
 でも、ここへきて従来のランキングの構図が崩れてきている。ベストセラー作家でもない著者の
既刊が割って入ってきているのである。今だと、柴田よしきの『激流』。少し前だと『向日葵の咲か
ない夏』や『長い腕』。起源は『白い犬とワルツを』 『慟哭』あたりか。共通するのは、書店の手書き
POPがヒットの火付け役になっていること。そういえば、「うずくまって泣きました」の一言で『モル
ヒネ』は大ヒットした。
 こういった書店発のベストセラーが定着するのは、長くこの業界にいるものとして喜ばしい。“ベ
ストセラーは確保するものでなく、つくるものだ。”というのは書店の士気を高める言葉だと思う。
わたしも大田蘭三の『顔のない刑事』の主人公、香月功を遠山の金さんに見立てて「モテて、強
くて、デンジャラス」とPOPをつけたけれど不発。
 自分の願望を表現しただけとは考えず、再チャレンジ。まずは片っ端から文庫の目録を読むこ
とに。気が付くのは、大手版元は「傑作」とか「金字塔」 「畢竟の大作」といった修辞はつかわな
い。かたや中堅以下は「傑作」のオンパレード。大手は作家同士のしがらみのせいか、抑制が効
いている。その分、賛辞は信憑性がありそうな。
 さて、わたしが再起をはかってすすめるのは、朝日文庫、山田正紀著『おとり捜査官』。目録に
は最高の褒め言葉「96年のミステリ界の大収穫」と。さっそく店の棚から探し出して解説を読む
と、本書の数奇な運命が語られる。最初は徳間ノベルズで刊行、それから幻冬舎文庫に移り、
朝日文庫に落ちつく。その間、書名が三度変わり、解説者は各巻三人に膨らむ。これほどすばら
しい作品がこのまま埋もれてしまうのは、あまりにも惜しいということらしい。
 それならば、わたしも四人目の解説者にならないと、と読むことに。あまりに先が気になって、
信号待ちでも読んでしまいました。わたしがどんなPOPを用意したかは店頭でみてね。 (蛙)
おとり捜査官1 触覚 おとり捜査官1 触覚 おとり捜査官2 視覚 おとり捜査官2 視覚
山田 正紀 著
山田 正紀 著
●朝日新聞出版
●342P 
●ISBN 9784022644503
●税込735円
●朝日新聞出版
●390P 
●ISBN 9784022644985
●税込840円
おとり捜査官3 聴覚 おとり捜査官3 聴覚 おとり捜査官4 嗅覚 おとり捜査官4 嗅覚
山田 正紀 著
山田 正紀 著
●朝日新聞出版
●439P 
●ISBN 9784022645029
●税込924円
●朝日新聞出版
●415P 
●ISBN 9784022645043
●税込903円
おとり捜査官5 味覚 おとり捜査官5 味覚
山田 正紀 著
●朝日新聞出版
●410P 
●ISBN 9784022645098
●税込903円

これぞ娯楽映画の
 「男の旅は一人旅、女の旅は帰り道♪」。桃次郎(文太)とやもめのジョナサン(キンキン)が歌
う主題歌にのせてデコトラ一番星号が爆走する。この強烈なイメージは映画「トラック野郎」を観
たという方なら誰しも心に焼きついていることと思う。たとえシリーズ最終作から三十年の月日が
経とうとも。
 筆者はリアルタイムに映画館で観ることはできなかったのだけれど、子供の頃しょっちゅうテレ
ビでやっていた。ビデオ・DVDで何回も観た(いや、今も観続けている)ファンもたくさんいらっしゃ
るだろう。そして皆が一様にこう思うのだ。「あんなに面白かった映画はない」と。
 そんな大衆娯楽映画の金字塔を打ち立てたのは、無思想無節操興行第一主義の鈴木則文。
「花火の美しさは、人の心の底から消え去るからである」(尾崎士郎)を座右に、儚く消える映画
だからこそ情熱を込めて創ってきた、全作品が娯楽に徹した商業映画オンリーの職人監督だ。
 自作について語るなんて野暮だと承知の鈴木監督が、増え続ける新しい世代のファンのため
に感謝の意を込めて書いてくれたのが本書『トラック野郎風雲録』(トラッカーマガジン「カミオン」
で好評連載中)。儚く消えるどころか、時代が変わっても観る者の心をつかみ続ける鈴木則文映
画の極意がここにある! (健)
トラック野郎風雲録 トラック野郎風雲録
鈴木 則文 著
●国書刊行会 
●313P 
●ISBN 9784336052346
●税込2,520円

「はやぶさ」
 今から約7年前に、小惑星イトカワへ旅立った探査機「はやぶさ」が先日6月13日、ついに地
球へ帰還した。帰還といっても、採取カプセルを地上へ投下し、本体は大気圏突入で燃え尽きる
といったものだ。その模様は動画サイトやユーストリームなどで中継され、特にNASAが航空
機を飛ばして撮影した映像は感動的なほど綺麗だった。
 この書籍の発行は2006年11月で、イトカワ付近で通信が完全に途絶えてしまった「はやぶ
さ」が復活し、地球への帰還の準備が計画されていた時期である。小惑星探査の計画〜はやぶ
さ打ち上げ、そして前述の通信断絶から復帰までが詳しく記述されている(現行の2刷で帰還時
の話が加筆されているようだが)。さまざまなトラブル、故障に対応し、帰還までこぎつけたJAX
A技術班の努力、執念がよく伝わってくる。
 そして感情的な話になるが、願わくば「はやぶさ2号機」への開発予算が事業仕分けから見直
されますように (崇)
はやぶさ はやぶさ 不死身の探査機と宇宙研の物語
吉田 武 著
●幻冬舎 
●295P 
●ISBN 4344980158
●税込861円

万歳
 つい数ヶ月前、隣県から富山に居を移して改めて感じたことがあった。某チェーンスーパーが
安い。ローンを抱える身としては実にありがたい。昨今、デフレが声高々に問題視されているが、
そんなことはどうだっていい。とは言いつつ、産地偽装問題も現実に起きているのであって、こ
の安さはどこから来ているのか、安いにはそれなりの理由もあろう。このことについて不安のあ
る方も、そうではない方も、一読されると視野がグローバルになるのである。
 現在、デフレの象徴とされるのが、アパレル業界や牛丼チェーンであろう。あれだけ安くして品
質は大丈夫かと思ってしまうが、安くするためのコストダウンを徹底的に行うなどの努力がなさ
れているということだ。例えば、一回の輸送で無駄を省くために多数の箱がコンテナぴったりに
収まるようなタイプのものを作ったり、生地も捨てる部分を極力少なくするような扱いをしている
そうなのである。そうかと思えば、外食産業であれだけ安売りを実現させているのは、世界のど
この地方が豊作で仕入価格が安くなりそうか、を日々監視しているとのことである。しかも、宇宙
からなんと衛星を使ってとのことであるから、我々の頭上でそのような覇権争いをしていたとは
スケールの大きい話である。
 しかし、値下げ競争で恩恵を受ける消費者がいる一方で、それにより体力消耗が続く企業、並
びにそこで勤務する労働者にいろいろな意味でシワ寄せがきており、限界も近づいてきている。
そろそろ健全な企業活動のためにも、適正な価格にしていかなくてはならない、とする。世のた
めにはそれがいいのだろう、と思う一方、個人としては、やはり安いに越したことはない、とどっ
ちつかずの思いの私であった。 (倉)
「激安」のからくり 「激安」のからくり
金子 哲雄 著
●中央公論新社 
●219P 
●ISBN 9784121503497
●税込777円

山登りのに−。
 山に登ると元気になる。足を交互に出し続けると知らず知らずのうちに無我、無意識の状態に
なり座禅したのと同じ効果が生まれ、生命エネルギーが充電される。中高年山登り愛好家のカ
リスマ的存在、岩崎元郎さんの『山登りの作法』を紹介します。
 95年にNHKで放送された、中高年のための登山学の講師をつとめ中高年登山ブームを牽
引した岩崎さんが、登山に際しての注意点・作法を簡潔に50にまとめた、非常にわかりやすい
登山入門書です。
 まず第一番目の作法が「なるほどナ!」と思わせてくれる。
 作法1・・・家庭の理解を得るべし。これを一番目にもってきたか!
 山の非日常性を繰り返し説きながら、全て経験に裏打ちされている話ばかりなので説得力が
あります。
 ただ、本の帯に「奥深い山登りの作法をこの一冊で全て習得」と書いてありますが、そんなに
は甘くないと思います。前作NHK出版の『登山不適格者』と併せて読んでいただくと理解が深
まると思います。 (加)
山登りの作法 山登りの作法 登山不適格者 登山不適格者
岩崎 元郎 著
岩崎 元郎 著
●ソフトバンククリエイティブ
●183P 
●ISBN 9784797354454
●税込767円
●日本放送出版協会
●217P 
●ISBN 4140880724
●税込714円

その死亡断書ほんとうですか
 海堂尊の『イノセント・ゲリラの祝祭』を読み終えると読み返したくなるのが、同氏の作である
『死因不明社会』です。そもそも『チーム・バチスタの栄光』に始まる一連のシリーズは、この著
作での主張を世間に認めてもらうために先んじて書かれたものなのですから、全く作者の狙い
通りなわけです。
 読み直すと、一度読んで理解しているつもりでしたが、要旨、論点などが理解不足でした。か
なり衝撃を受けた内容でしたが、時が経つとインパクトは残れど、肝心の内容については半分
以上忘れてしまうものなのでしょうか。小説の方を読むことで、日本の医療が抱える大問題、厚
生労働省の不作為などに再度憤りを感じ直します。無知は罪です。しかし、その無知の原因は
無関心なわけで、どうやって人々に関心を持ってもらうのかが大事なのです。
 ところで、『死因不明社会』も、海堂氏の小説も、NHK・朝日新聞を始め、各メディア大絶賛で
す。でも本当は、そのメディアが医学について勉強して、官僚の誘導策を鵜呑みにせず、逆に
一撃を食らわせれば、世の中は早く良くなったのでしょうね、と皮肉を感じる読後でした。 (富)
死因不明社会 死因不明社会
海堂 尊 著
●講談社 
●278P 
●ISBN 9784062575782
●税込945円

わたしはわたし。
 「陽気な心というのは、まるで薬のように身体にいい」。そう言っているのは旧約聖書です。
 「力と気品は女の装身具である」も同じく。
 このように格言と女性有名人の言葉が写真といっしょに綴られていくビジュアル写真集が出
ました。
 写真は子供の一瞬をとらえたものばかりで、まだ何も(それほどは)恐れず、無邪気に自分
自身でいられた頃を思い出させます。
 迷った時、自分を疑った時、覚悟を思い出す時、自分に返る時、手助けしてくれそうな本です。
 誰かのオーダーに応えるのも、役割を全うするのも大切です。でも、この本の背表紙が私を
釘付けにしました。
 「わたしはわたし。そのままを受け止めてくれるか、さもなければ放っといて。」 (松)
わたしはわたし。そのままを受け止めてくれるか、さもなければ放っといて。 わたしはわたし。そのままを受け止めてくれるか、さもなければ放っといて。
アルファポリス編集部 編
●アルファポリス
●167P 
●ISBN 9784434146404
●税込1,470円

いいから いいから
 人気絵本『いいから いいから』の4作目が到着。今回は、お父さんが道で泣いていた忍者を連
れて帰ってきました。そんな時でも、おじいちゃんは「いいから いいから」。お昼寝の時に枕元に
手裏剣が飛んできても「いいから いいから」。
 「おこってはいけない。だれかがおこるとみんなにでんせんする・・・。」(作者)
 「いいから いいから」を我が家でも合言葉にしたいと思いました。  (堀)
いいからいいから 4 いいからいいから 4
長谷川 義史 作
●絵本館 
●24P 
●ISBN 9784871101813
●税込1,260円

味しい」写真
 アルバムを整理していると、必ず出てくる失敗写真。目線がバラバラだったり見切れていたり、
赤の他人が写っていたり。
 漫画家・天久聖一編集の『味写入門』とは、そんな失敗写真に光を当て、撮影時には予想も
しなかった味わいを見出そうという写真集です。写真が素材なら添えられた客注は調味料。二
つが合わさった爆笑必至の味わいは中毒性大。あなたも押入れの失敗写真を引っ張り出して
みて。  (晶)
味写入門 味写入門
天久 聖一 編著
●アスペクト 
●127P 
●ISBN 9784757217706
●税込1,050円

 編集後記
 外に出ると、ねっとりとした熱気に抱きかかえられるような錯覚に襲われる。照りつける太陽を
恨めしく見ながら、遠くまだ行ったことのないインドのことを思った。熱いところで考え抜くのは辛
いことで、思想も鍛えられるだろう。頑張らないといけない。