(2006年12月1日号) PDF版

主な記事から
 将棋の本より棋士の本  甲斐の虎、実は能登の虎  ジョークな程売れるジョーク集

もし『グレート・ギャツビー』という小説に巡り会わなかったなら、
    僕は今とは違う小説を書いていたような気がする。− 村上 春樹
グレート・ギャツビー 愛蔵版
グレート・ギャツビー
グレート・ギャツビー グレート・ギャツビー
スコット・フィッツジェラルド
著 村上 春樹 訳
スコット・フィッツジェラルド
著 村上 春樹 訳
●中央公論新社 
●A5判/319P 
●ISBN 4120037827 
●税込2,730円
●中央公論新社 
●新書/356P 
●ISBN 4124035047 
●税込861円
 春樹版『グレート・ギャツビー』が出た。これを機会に、初めの数ページで挫折した原書をあわせて読む
ことにした。もっとも、わたしの英語力では単に音読したというだけのことだが、丁寧になぞったおかげで
思わぬ発見を3つばかりした。
 まず1つ目は第3章の終わりのニックとジョーダンとの車の運転についてのやりとりの部分。これは、
(1)『スプートニクの恋人』のなかの8つ年上の女性との金沢のホテルでのエピソードに影響を与えてい
る。房事でのウィットに富む会話は若い人には有益な話だ。
 2番目は第5章のギャツビーがニックの庭の芝生を刈らせるところ。(2)『午後の最後の芝生』を読んだ
ときに感じる「村上春樹は芝生をきれいに刈り揃えるのが好きなんだ」という思いはギャツビーゆずりなん
だということがわかって嬉しい。
 第3は(3)『今は亡き王女のための』の冒頭の(4)「大事に育てあげられ、その結果とりかえしのつかな
くなるまでスポイルされた美しい少女」には、ギャツビーが愛したディジーと同質なところがあるし、その結
末はディジーにもふさわしいものだと思う。
 この3点については、誰かが既にどこかで書いていることかもしれないし、わたしの牽強付会かもしれな
いが、独力で気がついたので、今はとても幸福な気分に浸っている。くせになりそうだ。
 『グレート・ギャツビー』は独立した優れた物語だが、村上春樹の源流を遡る気分で読むと、読者には
たまらないと思う。(蛙)
(1)『スプートニクの恋人』文庫版P61
(2)『中国行きのスロウ・ボート』所収
(3)『回転木馬のデッド・ヒート』所収
(4)なお、少女は石川県かどこかその辺りの、江戸時代から続いている旅館の娘という設定。
スプートニクの恋人 スプートニクの恋人 中国行きのスロウ・ボート 中国行きのスロウ・ボート
村上 春樹 著 村上 春樹 著
●講談社 
●文庫/318P 
●ISBN 4062731290 
●税込600円
●中央公論新社  
●文庫/288P 
●ISBN 412202840X 
●税込560円
回転木馬のデッド・ヒート 回転木馬のデッド・ヒート
村上 春樹 著
●講談社 
●文庫/214P 
●ISBN 4062749068 
●税込420円

「とりませんでした♪」
 本人は「脳が減りそう」とか言っていて周りばかりが大騒ぎしていたノーベル賞。別にとってもとらなくて
もあんまり変わらなそうなのが村上さんのいいところ。でも、「もし受賞したら、やっぱりコーナー作らなく
ちゃ」と調べたデータがこれ。2006年村上春樹売上ベスト5(なかだ調べ)。
 海辺のカフカ
 ダントツでした。やっぱりカフカ賞が大きかったのでしょうか。
海辺のカフカ 上 海辺のカフカ 上 海辺のカフカ 下 海辺のカフカ 下
村上 春樹 著 村上 春樹 著
●新潮社 
●文庫/486P 
●ISBN 4101001545 
●税込740円
●新潮社 
●文庫/528P 
●ISBN 4101001553 
●税込780円
 ノルウェイの森
 期間がなければ、一番売れている村上作品がこれ。
ノルウェイの森 上 ノルウェイの森 上 ノルウェイの森 下 ノルウェイの森 下
村上 春樹 著 村上 春樹 著
●講談社 
●文庫/302P 
●ISBN 4062748681 
●税込540円
●講談社 
●文庫/293P 
●ISBN 406274869X 
●税込540円
 神の子どもたちはみな踊る
 ちょっと意外? 個人的に好きで、けっこう力入れて売ってたからかも。
神の子どもたちはみな踊る 神の子どもたちは
みな踊る
村上 春樹 著
●新潮社 
●文庫/237P 
●ISBN 4101001502 
●税込460円
 アフターダーク
 一番新しい文庫。これが1位とかにならないのって、けっこうすごいかも。
アフターダーク アフターダーク
村上 春樹 著
●講談社 
●文庫/294P 
●ISBN 406275519X 
●税込540円
 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド
 初期の傑作がまだこんなに売れているなんて・・・。
世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 世界の終りとハード
ボイルド・ワンダーランド
村上 春樹 著
●新潮社 
●四六判/618P 
●ISBN 4103534176
●税込2,520円
 以上、翻訳もいいんだけど、やっぱり新刊が早く読みたいぞ! (淳)

転ばぬ先の読書
 最近、しばらくぶりに会う人からよく、「太った?」と聞かれるようになった。自覚は無いのだが、確かに
昔のような全力疾走はもう無理だ。そのせいか、子どもの運動会に参加して転ぶ夢を見た。夢といえど
も、なんとなく現実味が増している。そこで、ふと目にとまったのが、『お父さんはなぜ運動会で転ぶのか
?』。転ぶのは肉体的、心理的など様々な要因が重なっているらしい。自分は明らかに心理的要因で
あろう。走る前は自信があるのだが、走り出したら自信が無くなる。やはり普段からの運動は重要だ。
 ジョギングはやはりキツイから歩くことから始めたい。話題のロングセラー『医師がすすめるウオーキ
ング』がお薦めである。この本はどちらかと言うと、スポーツより健康について書いてあるが、健康あって
こそ走れるのである。
 さあ、明日から、数年後に全力疾走しても転ばぬよう、歩くぞ!? (倉) 
                                       
お父さんはなぜ運動会で転ぶのか? お父さんはなぜ
運動会で転ぶのか?
医師がすすめるウオーキング 医師がすすめる
ウオーキング
辻 秀一 著 泉 嗣彦 著
●PHP研究所 
●新書/205P 
●ISBN 4569637795 
●税込735円
●集英社 
●新書/190P 
●ISBN 4087202879 
●税込693円

齋藤孝速読に進出
 「速読」というとマンガ雑誌等の胡散臭い広告を思い出す。ブ厚い参考書もあっという間に読破!、
絶対無理だった志望校に合格!というあれです。学生の頃は時間が有り余っていたので、別に無理
して速く読まなくても、と思って気づけば社会人。最近ではそんな広告の載っている雑誌を読む暇もな
い自分に気づき(本屋なのに)、さらに学生時代以上に本を読む必要性を痛感する日々(本屋ですか
ら)。
 本書は、「速読は多読のためのスキルであり、多くの本を読むことはバランスのとれた価値観を養う
ために欠かせない」という理屈から、”左手めくり”、”目のたすきトレーニング”等、実践的?手法まで
幅広く解説。「読書とは、著者が自分のためだけに時間をさいてくれる、とても贅沢な時間」と結びま
す。本は読みたいけど時間がない!と嘆いている私のようなあなた(注・本屋は忙しい)、多読の第一
歩として、齋藤先生の『速読塾』を。 (内)
斎藤孝の速読塾 齋藤孝の速読塾
齋藤 孝 著
●筑摩書房 
●B6判/194P 
●ISBN 4480816518 
●税込1,260円

将棋の本より棋士の本
 将棋連盟から女流棋士会が独立するという。喜ばしい。だが、実のところは将棋連盟側の苦しい台所
事情がある。
 羽生三冠が七冠に輝いた96年と比較すると、3割減といわれるほど将棋人口が減っている。そういえ
ば将棋入門の本の売れ行きがかんばしくないような気が・・・。
 一方で棋士の書いた本は売れ行きがよい。例えば羽生の『決断力』や『先を読む頭脳』は思考力の鍛
錬に、『棋士の魂』は人間性の魅力で、将棋愛好者以外に読者を広げている。他にも中原誠や二上達
也のモノは円熟の極みということで動きがよい。
 これだけ棋士の本の需要があるのだから何とか将棋人口の回復に繋がらないものかと一文をしるす。
 (川)
決断力 決断力 先を読む頭脳 先を読む頭脳
羽生 善治 著 羽生 善治 著
●角川書店 
●新書/201P 
●ISBN 4047100080 
●税込720円
●新潮社 
●四六判/217P 
●ISBN 410301671X 
●税込1,365円
棋士の魂 棋士の魂
別冊宝島編集部 編
●宝島社 
●文庫/245P 
●ISBN 479664797X 
●税込650円

金沢本店フェア
・手帳、カレンダー ・家計簿 ・年賀状素材集 ・奈良美智 ・格差社会 ・クリスマスの絵本
・村上春樹

ビジネス書の棚から
新富裕層と真富裕層
 「格差社会」「下流」と「セレブ」。どれも流行語だが、あまり同じ文脈で見ない。でも格差の話をするなら
下流だけではなく上流の話も必要なはず。
 そう思った人は『ニュー・リッチの世界』を読もう。お金持ちの逸話が満載で、きっと憎い気持ちになるだ
ろう。私も「こんな話を読ませて、どうしたいんだ著者は!」と思った。
 でもテーマは別にある。日本は新富裕層のニーズをつかんでいないため、海外で消費される。それは
日本の損失ではないかと。確かにそうかも・・・。
 でも、やっぱり何か悔しいと思う方、著者はこうも言っている。真の富裕層とは、社会貢献を自らの義務
とするものだと! 素晴らしい。新富裕層は真富裕層へとならねば。どうやら、富裕層へのサービスも、
みんなが豊かになるひとつの道らしい。 (勇)
ニュー・リッチの世界 ニュー・リッチの世界
「年収5000万円以上、金融資産1億円以上」の人々

臼井 宥文 著
●光文社 
●B6判/319P 
●ISBN 4334933955 
●税込1,000円

工学書の担当者より
贅沢な建物
 昨年、映画「THE 有頂天ホテル」が話題となったことは記憶に新しい。首都圏を中心に高級ホテルが
増加している今、ホテル巡りは流行のひとつだ。顧客に極上のおもてなしを提供するためにホテルは今
日も大忙し。
 そんな世界各地の一流ホテルを収録しているのが、河出書房新社発行の写真集『21世紀のホテル・
デザイン』(全6巻の予定)である。
 今の「リッツカールトン」の前身である「ホテル・リッツ」を19世紀末に創業した、セザール・リッツの妻マ
リーは、壁ランプにピンク色のシェードを付け、食事を楽しむ女性をより美しく見せる演出を施し、女性に
絶賛されたという。ホテルデザインは奥が深い・・・。
 ホテル業界の競争が激化している現在、21世紀を生き抜くホテルは、独自のこだわりを追求し続ける
贅沢な建物なのだ。 (影)
21世紀のホテル・デザイン 21世紀のホテル・デザイン Volume1
岸川 惠俊 写真・文 川添 登 監修
●河出書房新社 
●A4変形/187P 
●ISBN 4309716415 
●税込7,140円

文芸書の担当者より
「ガルシア=マルケス全小説」刊行によせて
 なかなか文庫にならない本というものがある。著者が文庫化を許可しない場合(例えば埴谷雄高)を除
くと、本屋の実感としては、その本は地味だけど着実に版を重ねる、隠れたロングセラーに多いようであ
る。そして、なぜか海外文芸に多いのだ。今では文庫になってしまったけれど、『アルジャーノン』や『アメ
リカの鱒釣り』なんかがそうだった。
 なかでも極め付きはガルシア=マルケスの『百年の孤独』ではないだろうか? 83年に最初の邦訳が
出て、99年に改訳新装版が出るまでにどれだけ版を重ねたかは、書店に入社する前だったのでわから
ないが、新版のほうは堅実に重版し、店頭での回転もよかった。
 今回の小説全集の刊行で、また文庫化はお預けかと思うと文庫ファンとしては悲しいが、翻訳ものファ
ンとしては、こういう企画が出ているうちが華なので、大枚はたいてでも購入しておきたい。 (澤)
アルジャーノンに花束を アルジャーノンに花束を アメリカの鱒釣り アメリカの鱒釣り
ダニエル・キイス 著 リチャード・ブローティガン
●早川書房 
●文庫/485P 
●ISBN 4151101012
●税込840円
●新潮社 
●文庫/268P 
●ISBN 4102147020
●税込540円
百年の孤独 百年の孤独
G・ガルシア=マルケス 著 鼓 直 訳
●新潮社 
●四六判/445P 
●ISBN 4105090089 
●税込2,940円

中原の虹
 時は清末、光緒帝の御世の頃、満州を駆ける一人の馬賊が主人公。彼の名は張作霖。
 白虎張の二つ名が満州全土に知れ渡る。乾隆帝の墓に向かい、王者の証「龍玉」を手に入れる。その
側には”一万元壮士”李春雷が立ち並ぶ。幼き頃生き別れた弟を想い、今日も張と共に駆ける。
 彼の弟、李春雲は、宦官の最高位にまで登りつめ、西太后の側にいる。悪女で名高い太后は、今は亡
き勇者の霊に励まされ、”瀕死の獅子”を支えている。四億の民草の平安を望む志は、まさに聖女の御
心だ。
 『蒼穹の昂』から十年。待望の続編が遂に刊行。 (太)
中原の虹 第1巻 中原の虹 第1巻 中原の虹 第2巻 中原の虹 第2巻
浅田 次郎 著 浅田 次郎 著
●講談社 
●四六判/313P 
●ISBN 4062136066
●税込1,680円
●講談社 
●四六判/371P 
●ISBN 4062137399
●税込1,680円
蒼穹の昂 蒼穹の昂 @〜C
浅田 次郎 著
●講談社 
●文庫/@377P A367P B372P C388P 
●ISBN @4062748916 A4062748924 B4062748932 C4062748940 
●税込 各620円

実用書の担当者より
占いブーム
 世の中は依然、占いブームである。細木数子氏がTVで話題になったのが今回のブームの発端とも言
われる。血液型占い再ブームを巻き込み、風水、スピリチュアル、果ては家電占いなんていうものも。特
に最近は、幾つかの設問に答えるだけで自分の性格等を割り出せるものが、若い世代を中心に人気で
ある。心理テスト感覚で、誰でも簡単に出来る手軽さがうけているのだろう。
 しかし、何故これ程千差万別の占いが生み出され、享受されるに至ったのか。世の中への不安はさる
ことながら、自分自身への不安に酷く駈られた現代人は、「本当のあなたはこんな人」といった何かしら
の指針ー占いを次々と消費しているからだという気がしてならない。

歴史書の棚から
能登の虎
 ご存知、画人・長谷川等伯は能登の出。知る人の少ない武将・畠山義続は能登守護。この二人は、甲
斐の虎、武田信玄と浅からぬ因縁がある。
 というのは、これまで等伯画とされる高野山成慶院蔵の肖像画「武田信玄像」が、実は畠山義続を描い
たものではないか、という学説が発表された。まだ賛否両論の段階ではあるが、詳しくは『武田信玄像の
謎』(吉川弘文館)を読まれたい。
 来年の大河ドラマが「風林火山」ということもあり、当然信玄は様々な関連本に登場しているのであるが
本書の影響か、肖像論争はおろか、信玄の肖像すらここ一年の新刊本にほとんど登場していない。紹介
されるのは、甲府駅前の観光用銅像だったり、あたりさわりのない木像であったりと編集サイドの苦労が
偲ばれる。
 あの、いかにも信玄?これが義続?の肖像画は、今後の肖像画版「あの人は今?」になりかねない。
 (迫)
武田信玄像の謎 武田信玄像の謎 (歴史文化ライブラリー)
藤本 正行 著
●吉川弘文館 
●B6判/215P 
●ISBN 4642056068 
●税込1,785円

新書の担当者より
これで日本人もユダヤ人なみに
 発売当初はそれほど大きな話題になりませんでした。が、夏ごろから急にベストセラーに顔を出すよう
になり、先日某テレビ番組で紹介されて、商品が店頭から消えてしまいました・・・。
 何のことかって? 中公新書『世界の日本人ジョーク集』です。経済大国、高い技術力を称えるものか
ら、語学力のなさ、ワーカホリックを嘲笑するもの、古典的日本人像から、日本人には馴染みのない日
本まで。世界中のジョークに見る日本と日本人の姿を、笑い飛ばしてください。
世界の日本人ジョーク集 世界の日本人ジョーク集
早坂 隆 著
●中央公論新社 
●新書/238P 
●ISBN 4121502027 
●税込798円

編集後記
 何とか四号で終らず、五号を出すことができた。みんなのおかげだ。感謝。
 さて、今年の流行語大賞が発表された。「品格」が大賞、「格差社会」と「脳トレ」がトップテンに入賞と
書店発信のものが勢いをえている。調べてみると、こんなことは珍しい。活字離れといわれるが、どっこ
い「ペンは映像より強し」といきたいものだ。