(2006年8月1日号) PDF版

主な記事から
 靖国対決のゆくえ  オシムは孔子様か  新書ブームの謎

芥川賞・直木賞決まる。芥川賞に伊藤たかみ氏、直木賞は2作が受賞!
本谷氏、芥川賞四度目の一歩及ばず。
 芥川賞は本谷氏でなく、伊藤氏ということで、地元には残念な結果となった。受賞作は8月25日発売。さき
だって文藝春秋9月号に作品と選評が掲載される。8月10日発売。
 ここでは、作品ではなく選評の楽しみについて触れる。いずれも大家ぞろいだから当然だが、個性的という
か独善的というか、その芸は石原慎太郎知事と宮本輝先生において極まる。石原知事は公務で忙しいから
か、作品を読み通していないと推測される。評は毎回、作品のテーマの小ささを嘆いておしまい。一向に内
容に入らない。かたや宮本先生はテーマの健全さにこだわる。合わないテーマには拒否反応。何年か前に
「何の因果でこんなものを読まされなければならないのか。」という暴言を吐いている。
 お二人と対極にあるのは村上龍先生。後輩の作家に対する丁寧な態度には人柄の強さとよさを感じさせ
られる。ただし、綿矢りさに交際を迫ったという噂あり。先生は恐い。
八月の路上に捨てる まほろ駅前多田便利軒 風に舞いあがるビニールシート
第135回
芥川賞受賞作
第135回
直木賞受賞作
第135回
直木賞受賞作
八月の路上に
捨てる
まほろ駅前多田
便利軒
風に舞いあがる
ビニールシート
伊藤 たかみ 著 三浦 しをん 著 森 絵都 著
●文藝春秋 
●四六判/122P 
●ISBN 4163254005 
●税込1,050円
●文藝春秋 
●四六判/334P 
●ISBN 4163246703 
●税込1,680円
●文藝春秋 
●四六判/313P 
●ISBN 4163249206 
●税込1,470円

昭和天皇の御発言が店頭に波紋
 『日経』のスクープではじまった靖国問題は政界だけでなく、書店の店頭も賑わしている。反対派の論客は
東大の高橋哲哉。肯定派の巨頭は上坂冬子女史。新書で『靖国問題』と『戦争を知らない人のための靖国
問題』を上梓し、それぞれの読者に浸透中。これを機会に新たな読者を獲得すればベストセラー化は必至。
 なお、昭和天皇関連の好書として文春文庫の『陛下の御質問』がある。行間に漂う陛下の内面に圧倒さ
れる。
靖国問題 戦争を知らない人のための靖国問題 陛下の御質問
靖国問題 戦争を知らない人の
ための靖国問題
陛下の御質問
高橋 哲哉 著 上坂 冬子 著 岩見 隆夫 著
●筑摩書房 
●新書/238P 
●ISBN 4480062327 
●税込756円
●文藝春秋 
●新書/186P 
●ISBN 4166604988 
●税込756円
●文藝春秋 
●文庫/228P 
●ISBN 416767940X 
●税込550円

失言からベストセラー
 それは川淵会長の失言からはじまった。『オシムの言葉』は一夜のうちに『論語』よりも有名な箴言集となっ
た。TVでみるとオシムは背が高く泰然としていて、ピッチ上の孔子といえなくもない。孔子さまは2メートル近
い大男だったし、オシムはユーゴスラビアの解体の最中にいたから、春秋時代の孔子と境遇が似ている。
 ところで日本人は名将の言葉を押し戴くのが好きだ。なぜだろう?名将になりたいからか?「名選手必ずし
も名将とならず」というから両方というわけにはいかない。
 『オシムの言葉』を読みながら、自分がどのタイプかを考えるのは悪くない。まだ期待が大きい分、こころ
に響く。
オシムの言葉 オシムの言葉 フィールドの向こうに
人生が見える
木村 元彦 著
●集英社インターナショナル 
●四六判/238P 
●ISBN 4797671084 
●税込1,680円

今月の掘出モノ
 『骰子の7の目 シュルレアリスムと画家叢書』が待望の復刊。金沢本店では「球体関節人形」で有名なハ
ンス・ベルメールの巻がよく売れている。最近では金原ひとみや押井守がベルメールを取り上げ、一般の認
知度も上がってきているが、ここはひとつ人知れずこの画集を入手して、彼の描き出す「肉体の迷宮」へ迷
いこもうではないか。
ハンス・ベルメール ハンス・ベルメール
(骰子の7の目 シュルレアリスムと
画家叢書【全6巻】)
サラーヌ・アレクサンドリアン 著
澁澤 龍彦 訳
ハンス・ベルメール 著
●河出書房新社 
●A4変形/92P 
●ISBN 4309715621 
●税込3,990円

新書ブームの謎を解く
 新書ブームの立役者は新御三家。筑摩書房専務の松田哲夫氏は、新潮社『波』紙上で次のように分析。
 新潮新書、光文社新書、ちくま新書は編集力が優れている。適切な時期に、適切な内容を、適切な「題」で
とのこと。つまり、ロングセラーからベストセラーへの方向転換ということか。
 ところで本家は、岩波、中公、講談社です。岩波は装丁の変更で巻き返すつもりが・・・。
ここで新書を一冊
法隆寺の謎を解く 法隆寺の謎を解く  建築家が挑む古代史最大の謎。梅原猛
武澤 秀一 著 の出世作『隠された十字架』に真っ向から
●筑摩書房 
●新書/280P 
●ISBN 4480062602 
●税込861円
対決。軍配は著者に有利か。建築家は論
理も組み立てる。
 「柿くはず 謎を解くなり 法隆寺」

金沢本店フェア
・建築書フェア(8/1~9/30) ・岩波文庫品切本フェア ・QC検定 ・新会社法 ・改正金融商取引法
・英語で書く感想文 ・夏の教科書 ・四六版宣言(人文書) ・岡本太郎 ・心電図 ・WEB2.0
・夏の文庫フェア ・この文庫がすごい2006

工学書の担当者より
 街の魅力とは何だろう? 敢えて一言でいうとすれば「建築物の佇まい」か? 金沢では特にそう感じる。
武家屋敷には時間の重みを覚え、金沢駅や21世紀美術館には時への挑戦を感じる。
 さて、ありきたりの温泉旅行より、建築を中心に置いた旅行というのはどうだろう。新潮社『意中の建築』
は瞠目の一冊だ。ぐいぐいと旅をひっぱる。お腹には料理、心には建築がいい。金沢の魅力再発見のため
にもよいと思います。
意中の建築 意中の建築 上・下
中村 好文 著
●新潮社 
●B5変形/142P 
●ISBN 4104350044 
●税込2,940円(上巻)
●新潮社 
●B5変形/143P 
●ISBN 4104350052 
●税込2,940円(下巻)

「この文庫がすごい」発表
 文庫のトレンドを大きく左右する恒例の「この文」が宝島社から発表された。ランキングは次のとおり。
1.博士の愛した数式 2.セントメリーのリボン 3.本格小説(上・下) 4.レキオス 5.模倣犯(全5巻)
6.第三の時効 7.戻り川心中 8.阿修羅ガール 9.産霊山秘録 10.リンゴォ・キッドの休日
11.ラッシュライフ 12.陽気なギャングが地球を回す 13.実験小説ぬ
 『博士の愛した数式』は本屋大賞に続く二冠。『セントメリーのリボン』は12年前に夭折した悲運の作家・稲
見良一の復刊。突然二位に登場でランキングの信用度アップ。
 なお、同時に発表された官能大賞は金沢本店店頭発表ということになりました。

ビジネス書の担当者より
スッキリする経済学
 人と話をしていて価値観が対立するときほど疲れることはない・・・。そんな時、数字を出すことでスッキリす
ることがある。『ヤバい経済学』では、そんなスッキリ感が味わえる。著者によれば、アメリカの犯罪減少の理
由は、取締り強化や銃規制ではなく、中絶の合法化であることなどをデータから検証したりする。
 真実はともかく、データを読み解くことでも色々なことがわかるものだと関心する。
ヤバい経済学 ヤバい経済学 
悪ガキ教授が世の裏側を探検する
スティーヴン・D.レヴィット 著
スティーヴン・J.ダブナー 著
望月 衛 訳
●東洋経済新報社 
●四六判/296P 
●ISBN 4492313656 
●税込1,890円
『さおだけ屋~』の次は・・・
 『さおだけ屋~』に続き、『なぜ、社長のベンツは4ドアなのか?』が売れている。『さおだけ屋~』に比べ、入
門書色は薄い。中小企業の裏話が多く、リアルな逸話がなかなか面白い。ただの裏ネタ雑学としてもよい
が、中小企業担当の営業マンからは「使える」という感想も。
なぜ、社長のベンツは4ドアなのか? なぜ、社長のベンツは4ドアなのか?
誰も教えてくれなかった!裏会計学
小堺 桂悦郎 著
●フォレスト出版 
●B6判/193P 
●ISBN 4894512262 
●税込1,470円

理学書の担当者より
花火大会に行かず、本を読む
 荒木俊馬『大宇宙の旅』が復刊された。本書の初版は1950年。56年の月日を経て現在に甦る。漫画家・
松本零士の描く宇宙の原点となった「銀河鉄道999」も「キャプテンハーロック」も、この本がなければ生ま
れなかった。
 宇宙はどのようにして出来たのか? サイモン・シン『ビッグバン宇宙論 上・下巻』がその答えを導く。有名
無名の天才たちが人類最大の謎に迫る科学ノンフィクション。宇宙の始まりを物語のように読める最近の一
冊。別に花火を打ち上げなくても、北陸の夜空は十分美しい。天の配剤に多少の言葉を加えたい。
大宇宙の旅 大宇宙の旅 ビッグバン宇宙論 ビッグバン宇宙論 上・下
荒木 俊馬 著 サイモン・シン 著
青木 薫 訳
●恒星社厚生閣 
●B6判/390P 
●ISBN 4769910436 
●税込2,940円
●新潮社 
●四六判/298P 
●ISBN 4105393030 
●税込1,680円(上巻)
●新潮社 
●四六判/284P 
●ISBN 4105393049 
●税込1,680円(下巻)
湯川・朝永生誕百年
 京都帝大の同窓で、共にノーベル物理学賞の受賞者である湯川秀樹と朝永振一郎の生誕百年を迎える。
両博士とも文章にも秀でており数々の名著を物しておられる。『旅人 (湯川秀樹自伝)』は伝記文学の傑作
のひとつ。朝永先生の『鏡の中の物理学』は裁判劇で量子力学の本質を解き明かす「光子の裁判」を収録。
先生のユーモラスな人柄が偲ばれる好書。
旅人 旅人(湯川秀樹自伝) 鏡の中の物理学 鏡の中の物理学
湯川 秀樹 著 朝永 振一郎 著
●日本図書センター 
●四六判/283P 
●ISBN 4820542745 
●税込1,890円
●講談社 
●文庫/129P 
●ISBN 4061580310 
●税込588円

人文書の担当者より
永原慶二追悼
 歴史学者の永原慶二が没して二年。吉川弘文館より追悼文集『永原慶二の歴史学』が上梓された。封建
制・荘園制・戦国史などの研究と、先生の人柄や知られざるエピソードが同僚・教え子から語られる。
 遺作となった『苧麻・絹・木綿の社会史』は日本列島に生きた人々の生活を「三本の糸」を手繰りながら独
創性豊かに織り出す「永原史学」を代表する一冊。
永原慶二の歴史学 永原慶二の歴史学 苧麻・絹・木綿の社会史 苧麻・絹・木綿の社会史
永原慶二追悼文集
刊行会 編
永原 慶二 著
●吉川弘文館 
●A5判/389P 
●ISBN 4642079599 
●税込6,300円
●吉川弘文館 
●四六判/355P 
●ISBN 4642079343 
●税込3,360円

文芸書の担当者より
生き続ける古典
 昨年九月、ひっそりと刊行されたカポーティ『冷血』の新訳が一年を待たずに文庫化。今秋公開の映画「カ
ポーティ」に合わせてのことだろうが、「古典(クラシック)」が手軽に読めるのは喜ばしい。本国アメリカでは
『冷血』が再びベストセラーリストにのぼっているそうだが(しかも今回の映画公開のはるか前から)、時代を
問わず生き続ける傑作の力には感服せざるを得ない。
冷血 冷血
カポーティ 著・佐々田 雅子 訳
●新潮社 
●文庫/623P 
●ISBN 4102095063 
●税込940円

実用書の担当者より
カレー三昧(フェア情報)
 夏になると無性にカレーが食べたくなる。夏はカレーだ、スパイスだ。カレーと聞くとカレーライスを想像しが
ちである。しかし、カレーはカレーライスだけにあらず。カレースープ、カレーまん、それに激辛カレーマーボ
ー豆腐なんていうメニューも。それこそ、年がら年中食べても飽きないくらいだ。
 そんな訳でカレー作りの本を集めてみた。これで今夏は市販ルー以上の腕前を会得してほしい。
BOOK Report 『夕方、まだ明るいうちからビールをあけるしあわせ。』
 夏の晩酌といえばビール。シャワーを浴びてさっぱりしたら、冷えたビールを気の利いた肴でまず一杯、
というのはどうでしょう。そんな時のお洒落なおつまみも、肉や魚のメインディッシュも、小腹がすいた時の
ご飯ものも、この本一冊あればおまかせあれ。酒の肴をササッと作れば、料理上手と言われること間違い
なし。野菜のレシピも多いのでヘルシー志向の方にもおすすめ。
夕方、まだ明るいうちからビールをあけるしあわせ。 夕方、まだ明るいうちからビールをあける
しあわせ。
藤井 恵 著
●主婦と生活社 
●B5判/95P 
●ISBN 4391620839 
●税込1,050円

児童書の担当者より
五味 太郎
 絵本作家の五味太郎さんはすごい人だ。名前を知らなくても、きっと彼の絵には見覚えがあるはずだ。あ
の気の抜けたような絵を。自分たちが覚えているくらいだ。今の子供たちの心にもきっと強烈に残るだろう。
それに、彼の本は大人が読んでもとってもシュールで新鮮なのである。そんな五味太郎の本をいくつか揃
えてみた。
きんぎょが にげた きんぎょが にげた
五味 太郎 著
●福音館書店 
●A5判/23P 
●ISBN 4834008991 
●税込780円

学参の担当者より
受験モノ揃う
 書店の参考書売場が模様替えし華やいできた。白、黒、と原色が鮮やかで、さながら運動会の
色別対抗みたいだが、これはセンター試験予想問題集、過去問題集の装丁が出版社単位で色別になって
いるため。受験生は心得ていて、出版社ではなく色で識別している。これから追い込みの受験生諸君は運
動会気分にはなれないだろうが、本棚の蔭からご健闘をお祈りしています。
 なお、赤本の金大は9月、富大11月、医学部11月下旬の予定です。
 ちなみに、白は代々木ゼミ、黒は河合塾、青は駿台予備校緑はZ会赤は教学社をさします。